あの子はメルヘンチック
じわじわと、頬の桃色の濃度を濃くしていく天使が潤んだ涙目で睨んでくる。
困らせてしまったのは間違いないとして、好きな子に可愛さ満点の顔のまま涙目うるうるで上目遣い(睨まれてる)をされたら、並大抵の者は平常心でいられない。
俺はまたしても奥歯をギチギチと噛み締めた。
「……っ、わたし、メルヘンチックな思考してるかもしれないけど、ここが御伽噺の世界じゃないってわかってる」
「…………うん?」
「物語のお姫様になりたくても、本物の王子様と出会いたくても、きっとむり。あれは幻想だから。わたしはメルヘンな世界に憧れてるだけで、実はそんなに鈍くないの」
「……うん」
「だから、隣の席の男の子が、わたしのこと好きすぎることくらいは知ってる」
「………………………………………………え?」
ヒュウ〜〜〜〜ッッッ、ズドンッッッ!!
特大サイズの花火が、俺の頭の真上で爆発して火花を散らした。脈絡ない話のオチを待っていたけど、このオチは想定外だった。驚きすぎて、心臓が一瞬止まった。
クリーム色の髪がふわりと揺れ、前髪から子鹿のような瞳が覗く。意外と気の強そうな双眸が、童話の中のプリンセスたちと重なった。
呆気に取られてる俺の横をぱたぱたと通りすぎて先回りした天使が、スカートを翻す。
仕掛けたはずが、仕掛けられていた。
「────でも、夢くらいみたっていいでしょう?」
ふわふわと、天使が無邪気に笑って、羽を揺らす。
前を向いた俺は視線の先にいる天使を見つめ、どこか挑発的に微笑む姿の虜になった。お互いに無意識に残していた透明の壁が、音を立てて崩れていく。
「わたしは夢をみる。夢を醒すのは王子様」
「……」
「だから大路結弦くん、わたしをどうか夢の世界から醒ましてみてね」
ああ、また、一段と深みに嵌ってしまったな。
はためくスカートがお姫様のドレスの裾に見えた。天使の羽もあるし、ティアラも被ってる。メルヘンチックに酔ってるのは俺の方だ。