あの子はメルヘンチック
あの子のマジック


〈 綾人 side 〉


 絶世のイケメンである大路結弦の第一印象は、抽象的な〝やばい〟の一言に尽きる。同じ学校のやつに聞いても、俺と同じ回答が得られるだろう。

 その理由は、まず入学式での出来事だ。

 春爛漫、真新しい制服に身を包んだ新入生の中で、圧倒的な美を振り撒く色男がいた。


「あの男の人、かっこよくない?」
「ほんとだ、超イケメン! でも機嫌悪そう〜」
「中学のバスケの試合で見たことあるかも。エースだった人だよ」


 まさに、イケメンと呼ばれる人間の模範例。

 それなりの見た目だと自負してた俺も、大路結弦の容姿には目を見開いて完敗した。完成されたルックスがそこにはあって、女子が色めき立つのも理解できるほどの妖艶な佇まいだ。


「……チッ」


 しかし、新たな船出に胸を躍らせる新入生の中で、不機嫌を隠そうともせずに壇上を睨んでる大路結弦はかなり異質。周りの女子も気軽さをなくす。

 愛想が悪いのか、機嫌が悪いのか。

 どちらにしても、見目が麗しすぎて衆目を集めていたのは間違いないのだが──、事件は新入生代表の挨拶の時に起きた。


「…………は? くそかわ」


 そこそこの、結構なボリュームで。

 新入生にも在校生にも教師の耳にすら届く、大路結弦の唖然とした声が、体育館に響いた。

 大路結弦の言葉に周りが静まり返る中、本人は口に出てることに気づいてないのか「可愛い可愛い」と連呼し始めて、首席の女の子に釘付けになっている。


「……ぶはっ! ははは!」


 ここで堪えきれず、俺は爆笑した。

 くっそイケメンな顔で不機嫌だったやつが、急に間抜けな面を晒して、あほみたいに「天使可愛い」と連呼してる状況、シンプルに面白すぎるだろ。

 首席の天使こと、姫井めるに一目惚れした王子様。

 運良くメルヘンな彼女と隣の席になった大路結弦がポンコツになっていく様を面白がり、俺の方から「友達になんねえ?」と声をかけたのだった。

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