あの子はメルヘンチック


 それは高校の入学式。

 周りが「どこ中?」「友達になろ」と無意味で生産性のない会話を繰り広げてる中、俺はイライラを通り越して脳内が爆発しそうになっていた。

 俺が選んだ高校は、進学校だが校則が緩く、家からも近い。倍率もかなり高かったらしいが、余裕で受かった俺からしたら人生はイージーだの一言に尽きる。

 謎に美男美女率の高さもあることから、中学同様に退屈しない時間を送ってやろうと上から目線でふんぞり返っていたわけだが、──何故か次席だった。

 そう、次席。

 この俺が、首席じゃない。



 首席じゃないと知った日、大いに荒れた俺は、らしくもなく部屋で闘争心をメラメラと燃やした。悔しすぎて枕も投げた。


「は、は〜〜〜!? 俺が首席じゃない? 首席じゃないだと!? 俺よりも頭がいいやつが!? クッソ腹立つどこの誰だよ! 絶対に、鼻っ面折ってやる……」


 なんて言いながら、自分より面が良くて、勉強も出来て、もっと人生イージーなやつが出てきたらどうしようとも考えた。それは一大事だ。

 新入生代表の挨拶なんて面倒なだけだが、やらないのとやれないのじゃ、意味が違う。


 こうして、めでたい入学式当日の今日。

 体育館に集まった浮かれる新入生や怠そうな在籍生の中で、俺だけが闘争心に身を焼かれながら、周りから囁かれる「かっこいい」の言葉も無視して敵(首席のやつ)と対峙する瞬間を待っていた。


「(許さない、許さない、俺が1番じゃないなんて許さない……)」


 そんな呪詛のような言葉を心の中で繰り返して、壇上を見つめる。

 無駄に長い来賓の挨拶や歓迎の言葉が終わり、ようやく新入生代表の挨拶。俺は待ち望んでいた邂逅に目をかっぴらいて、軽く殺意を滲ませながら、前を向いていた。



 そして、



「あたたかな春の訪れとともに、私たちは──」



 心地いい声の音色。
 ふわふわのクリーム色の髪。
 絵本の中のお姫様みたいな愛らしさ。


 雷にびしゃーん! と打たれたような衝撃が身体中に走った俺は、間抜け面を晒す。






 一目惚れだった。



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