あの子はメルヘンチック
「…………は? くそかわ」
目を疑う可愛さ。むりだ。なんだこれは。
脳内プチパニックな俺は、周りの新入生が慌てふためく俺の様子に「?」と酷く混乱している空気にも気付かず、壇上にいる天使を凝視する。
前提として、俺はなぜか盲目にも首席の新入生代表が男だと勘違いしていた。それが間違いだ。
こんな、ゆるふわな、くそ可愛い女が俺を負かしたなんて信じられない。いやでも、これは現実。頬を抓っても痛い。
どう見ても可愛くて天使だし、なにこれ好き。
「あ、あの、大丈夫……? あの?」
「……は、かわい、え、どういうこと?」
「あの、声、全部出てる……! ちょっと、周りにも聞こえてるから……!」
壇上に釘付けになって、脳内の言葉が全て口に出して再生されてるなんて夢にも思わない俺は、式が終わるまでひたすら「可愛い」をリピートしていた。
驚くことに初恋、しかも一目惚れ。正気でいられる方がおかしい。
輝かしい高校生初日。
人生イージーの俺が天使に一目惚れした挙句、周りから「残念なイケメン」と認知され、ハードモードな人生を歩むこととなるなんて、誰が想像しただろう。
本人どころか、親ですら思ってなかったはずだ。
茫然自失の俺は、ふらふらな足取りで気味悪がられながらクラスに向かう。
そこで、俺はまたしても目を見張った。
「(お、同じクラス……! 隣の席!!!)」
運命だ。絶対に彼女にして、将来結婚する。
隣にちょこんと座る天使を横目に、俺は決意を固くした。どの角度から見ても神が遣わした天使で、可愛い以外の言語では形成できない。
浮かれていた俺は、まだ人生を舐めていたんだろう。
まさか1年間なにも進展がないなんて。
本命童貞と呼び声も高い無様な姿になるなんて。
────このときは露ほども思っていなかったのだ。