あの子はメルヘンチック
────高校2年、初夏。
太陽が容赦なく照りつけ、コンクリートの地面は灼熱の地獄。湿度が高くて呼吸がしづらく、汗で肌に張り付く髪や制服が気持ち悪い。これらの理由で俺は夏を嫌っていたが、高校に入ってから嫌いを撤回した。
「天使の二の腕……白くて可愛い……生肌……」
「今日も絶好調だな、残念王子」
「誰が残念王子だ。天使の将来の夫だぞ。大路 結弦様と呼べ」
「ハイハイ、オージさま」
俺の滑らかなキャラメル色の髪を雑に撫でられ思考が止まる。窓枠に肘をつく綾人は、高校に入学して最初に話しかけてきたクラスメイトだ。俺よりモテる男。
まあ、入学後1週間経たずで、俺が天使に懸想してることが周知の事実となり、以降はマスコットイケメンになってしまったから、必然的に俺の次に顔がいい綾人が女からの人気を総取りしているだけの話だ。
羨ましくはない。
「天使の将来の夫になりてえなら、眺めるだけじゃなくまずは話しかけて来いよ」
「邪魔したら悪いだろ。俺は気遣いがデキる夫なんだよ」
「先に彼氏にならないといけないけどな」
「黙れ、もしかしたら今日彼氏になれるかもしれないだろうが」
「天地がひっくり返ってもむりだろ」
なんで言い切れるんだ、と諦観してる綾人を睨むも鼻で笑われる。
ああ、もう、なんで上手くいかない。
外でみんみんとやかましく鳴く蝉は全てオス。メスに求婚してるに他ならない。つまり公然で「セックスしたい」とあいつらは叫んでるわけだ。
だから俺も、それに乗じて「天使と付き合いたい」とか「将来の夫になる」とか口に出してるが、その度に廊下を行き交う通りすがりの生徒から呆れた視線を向けられる。
哀れみの表情をやめろ! 俺は可哀想じゃない!