あの子はメルヘンチック
どうして天使と進展がないのか、距離が縮まらないのか、付き合えないのか。かれこれ1年も悶々と悩んで綾人に相談している。1年もだ。
廊下の窓から微風が吹き、髪を攫う。同じように教室で本を読んでる天使のふわふわな髪が舞って、お揃いだと頬を緩めた。
「……結弦くんよ、ほんとなんでそんな残念なイケメンなわけ」
「あ?」
しかし、耳に届いた言葉が、俺を現実に連れ戻す。
染めた髪の毛先を遊ばせて、愛想のいい口元をゆったりと上げる綾人は、俺に言い聞かせるように言葉を並べ始めた。
「一目惚れした好きな子と同じクラスで隣の席だったのに距離を縮められず、それから1年、隣に座りたいがために席替えで無駄に手回ししてたよね?」
「それがなんだ」
「でも1年なんの進展もないまま進級して、2年のクラス替えでまた奇跡的に同じクラス、隣の席になったのに緊張して近寄れないって……どういうこと?」
「天使が可愛くて、ドキドキするから近寄れないだけだ。格好がつかないから遠くから見てんだよ」
「もう既に格好はついてねえよ、現実みろ」
見てるからへこんでるんだろうが、直視させるな。
深い溜息を吐いて「ポンコツが」と毒づく綾人に心の中で「うるせえ」と言い返しながら、俺だけの問題じゃないだろとも返す。
俺が本命相手に上手く話せないポンコツなのは認めるとして、天界から間違って降りてきて迷子になってる天使の方にも問題はあるのだ。
「メルヘンちゃんね〜」
しみじみと呟いた綾人の声が、夏の気温に溶ける。
俺の天使のあだ名である「メルヘンちゃん」は意味通り、彼女がとてもメルヘンチックな思考の持ち主だからだ。
まさに、絵本や童話の中のプリンセス。
「苦戦するのも仕方ないだろ。天使が探してるのは本物の王子様だぞ」
「それについてはノーコメント。ま、めるちゃん超可愛いけど、落とすには相当根気がいるわな」
「勝手に天使の名前を呼ぶな!」
「その天使の名前すら呼べないやつが彼氏面してんじゃねえよ、アホ」
本物の王子様にはなれないんだから、彼氏面くらいしてもいいだろ。
姫井 める。字面すら可愛い。