余命乙女と天邪鬼の恋病
桃矢という男の子と出会ったことを富子と共に「心配ね」なんてたわいのない話しをしていた。

その日の夜、眠りについた静枝は発作で苦しんだ。
時々突然現れてはしばらくすると収まる。
「いつものことね」と気休めにいただいた薬を飲み、少しずつ落ち着きを取り戻した静枝は再び眠りにつく。

静枝は夢を見ていた。
夢の中で静枝は深い霧の中で出口を探すように歩く。
どれくらい歩いただろうか…と次第に焦り、夢の中のはずなのに疲れ果て、その場で座り込む。
周りを見ても霧で何も見えない。

困っていると何か気配を感じた。
周りを見ても霧だらけの中、人影?のような黒い影を見つけた。
立ち上がり人影を目指し走る。

「あの…突然失礼いたします!」
静枝が声を掛けると人影?は振り向く。



ハッと目を覚ます静枝。

「………?」
「お嬢様!良かった…うなされておりましたから十和は心配で心配で…」
十和と女の使用人が数名、そして両親がいた。
「夢だったのね」と安堵したが体は火照り汗をかいていた。おでこに触れると発熱して、そういえば体もダルい。

(発作も発熱も突然やって来てるのは困ったものね。心配ばかりかけてるわ…あと少しだけ迷惑かけるのを許してね)
心の中でつぶやきながら無理に眠りつく。


翌朝、両親から静枝の容態を聞いた富子が部屋に尋ね、心配してくれた。

静枝は発熱で体がダルく動くのも辛い状態ながら、首を富子の方に向け「心配かけてごめんなさい」と謝る。
静枝は一週間ほど寝込んだ。
富子特製のお粥を完食できず悔しい日々だったが、めげずに作ってくれ完食できた日には泣いて喜んでくれた。
「優しい妹を持てた私は幸せ者ね」と富子を抱きしめる。

静枝の気持ちはモヤモヤしていた。
寝込んでいた一週間、日中は特に何もなくゆっくり寝られていたが夜になると再び深い霧の夢を見る。
現実ではもう無理だが全力で走ったり、時には何もせず座って夢から覚めるのを待っていた。

目を覚ます直前、夢の中で人影に出会う。
顔や姿は霧でわからない。

「…死神様かしらね。……まだ死にたくないよ…でもお父様たちにも迷惑や心配かけたくない…」

静枝は静かに涙を流した。
日に日に死を覚悟していたが、生きるために足掻きたい自分がいた。


体調も良くなり、夕餉は家族と一緒に摂ることにした。

静枝が食事の席に座ると両親と妹が心配してくれる。
ありがたさを感じ楽しくお喋りをした。

食事が終わり、食器を片付ける使用人たち。
富子と部屋に戻ろうかと立ち上がる静枝に父親が「ちょっと話があるんだ。富子も聞いてくれて構わん」と呼び止められる。

使用人もいなくなると父親はゴホンと咳払いをし困った顔をする。
「??」そんな父親に静枝と富子は顔を合わせ首を捻る。

「あなた、ほら!」
「わかっているから急かさんでくれ」
父親は母親に弱く尻に敷かれている。



「静枝、実はな…数日前にお前を妻に迎えたいと仰る方が現れてな」
「え?……私ですか?富子の間違いでは?」

静枝の家はそこそこ裕福なので社交界の場へ招待されるので静枝も富子も何度か参加したことがある。

静枝よりも富子の方が美しいので殿方からよく声を掛けられていた。静枝も富子のオマケ程度だが、ありがたいことに声を掛けられるので尾上家や静枝の事を知っている家もある。
静枝が病にかかってからは社交場に参加できていない。
社交場以外でも店の者や医者くらいの交流しかない静枝になぜ?富子ならわかるが…と疑問しか湧いてこない。

「先方に確認したよ。間違いなく静枝、お前だと。一応、病で子も望めないと伝えたんだが病の事を知っているようで構わないと…」
父親は静枝に手紙を見せてくれる。
そこには間違いなく「静枝」の名が書かれており結納金もかなりの金額で、相手の家柄は良いのだとわかる。


「えっと…お名前は……あまみや?天宮桃矢様?」
天宮なんて苗字に知り合いはいない。


「天宮家は私は面識はないのだが、由緒正しい高貴な家柄なんだそうだよ。本来なら尾上家としても父としても娘の縁談は喜ばしいことなんだがな…」

「怪しくありませんか?」
「そうよね」
母親と富子は由緒正しい家柄のご子息が病の娘(姉)を妻に?と不信感を抱く。
静枝を見下してるわけではなく、心配だからこそ。



「お父様、お母様。私、この縁談お受けします。私が病と知って花嫁に迎えていただけるなんて幸せです」




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