王子様との両片想いな闇落ち学園生活 〜封印される記憶〜

1.記憶のない私

「今日の君も可愛いね。これから何年も一緒に学園にいられるなんて、君と同じ学年でよかったよ」

 今日もいかにもな王子様のロイド・ジルベール様が私に愛を囁く。金のサラサラの髪、深みのあるグレーの瞳。こんなに素敵な人が私の婚約者だなんて夢みたいだ。

 ――でも、彼の言葉が本音ではないことも分かっている。

 彼は……この私には興味がない。だから絶対に「好き」だとは言わない。ただ婚約者として期待されている王子様を演じているだけだ。「好き」だという言葉だけは嘘で口にしたくないのだろう。

「もう、ロイド様ったらいつもそんなことを言って」

 私も期待されている婚約者を演じる。嘘だと分かっていても嘘だと指摘はしない。
 
「毎日言いたいんだよ、ミリア」

 愛おしそうに私の名前を呼んでくれる王子様。それなのに――、

「じゃ、また放課後にね」

 あっけなく彼は立ち去っていく。授業開始前に校舎入口で待っていてくれるのは、それが婚約者としての義務だと思っているからだ。

 だって、学園の食堂で一緒に食事くらいしてくれたっていいのに、一度も誘われたことがない。当然デートもない。義務的に定期的にお茶を共にすることはあるけれど、親への報告に必要だからだろう。天気の話や紅茶の話などありきたりな話ばかりで、すぐに終わってしまう。

 すごく寂しい。

「いつもの挨拶は終わった?」

 友人が話しかけてくれる。わざわざ私たちから距離をとって待ってくれていた。

「ええ。授業へ行きましょうか」
「ふふっ、羨ましいわね。毎日ごちそうさま!」

 彼のイメージ工作はこうやって成功している。

 いつだって彼はああやって笑う。 
 綺麗な綺麗な顔で。
 明日も明後日もこれからも、青空の下でつくられたような爽やかな笑顔を私に向けるのだろう。

 ――そんな彼が、私に対して待ち焦がれるような顔をする時が毎日一瞬だけある。

 講義が終わってから、彼に連れていかれるとある一室。私と寮に戻る前に二人きりになりたいからと案内された場所。研究棟の横にある多目的棟という名前の建物の中には地下へと進む階段があって、いつも私は放課後にそこへ誘われる。

 ――そして例外なく、記憶を失うんだ。
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