王子様との両片想いな闇落ち学園生活 〜封印される記憶〜

2.記憶の戻った私

 ああ――、思い出してしまった。

「また私を連れてきたのね」

 一オクターブ低くなった私の声に、彼がくくっと愉快そうに笑った。

「当然だ。僕は君を好きなんだから」

 好きなのはこっちの私じゃないでしょう。
 ここでは昼間と違って「好き」という言葉を大安売りする。「私も好きよ」という言葉が返ってこないことを恐れる必要がないからだ。

 当たり前のように無遠慮に私をベッドまで連れていくと、彼が私の服を脱がせ始める。この部屋は……本来なら夜通し実験なんかをする人の仮眠場所なのかもしれない。

 彼は最初のあの日、ここに私を連れてくるなり突然無体を働いた。

「あなたが好きなのは昼間の私でしょう。臆病者の王子様?」
「はは、酷い言いようだ。そうだよ、僕は臆病なんだ。だから、そろそろ教えてくれよ」
「何をよ」
「いつも聞いていることだ。初デートはどこがいい? 君は何が好きなんだ?」

 彼の能力はこれだ。特定の場所での記憶だけ相手から奪う。条件はいくつもあるらしく、簡単にできるわけではないらしい。詳細は教えられていない。

 普段、私に当たり障りない態度ばかりとるのは、嫌われるのが怖いからだ。だからここで根掘り葉掘り聞こうとする。
  
「昼間の私に直接聞きなって言ってるじゃない」
「どうせ僕と一緒ならどこでも嬉しいとか適当にあしらうんだろう。いつもみたいにつまらなさそうにさ」

 それは昼間の私が彼の言葉を本気で受け取っていないからだ。信じることができない。

「もう少し会話でもして仲を深めれば? いつもあっさりいなくなるでしょう」
「仕方ないじゃないか。あんなにつまらなさそうな顔をして僕の言葉を聞く君が、少しだけ不満気な顔をする。それが嬉しいんだ」
「ろくな趣味じゃないわね」
「うるさいな。僕を好きじゃないくせに、多少は想われていたいなんて考えている君だって悪趣味だよ」

 ……好きなんだけどね。

 でも、教えてあげない。
 だって教えてしまったら、普通に昼間の私と深い関係になろうとするでしょう?

 私のここでの記憶は消してしまって、今の私は消滅するはずだ。
 
「今みたいに食い下がって聞けばいいじゃないの」
「かっこ悪すぎて嫌われたらどうするんだ。なぁ、どーゆー男が好みなんだ。その通りにするから教えてくれよ」

 しかも……純潔まで奪われた。最低最悪の男だ。今もいつの間にか下着姿にされている。

「誰があなたなんかに。どうせ覚えていないからと好き勝手して、それなのに可愛いママゴトみたいな恋愛まで楽しもうだなんて、ほんと勝手な男よね」
「君に万に一つでも嫌われたくないんだよ。君にこうした理由は、何度も説明しただろう?」

 どうして私はこんな人を好きなんだろう。
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