王子様との両片想いな闇落ち学園生活 〜封印される記憶〜

3.どちらの私を

「また意識を失っていました」
「ああ、僕は二人きりの時間を満喫できたよ」

 人畜無害な顔で彼が微笑む。

 背後には、さっきまで一緒にいたはずの部屋の扉。何があったのかもハッキリとは分からないまま、私はここを立ち去る。

「私は何も満喫していません」
「よく眠れたんじゃないか」

 ……倦怠感しか感じないけど。

 ――彼の能力で間違いなく私の記憶は封じられている。

 この中では、きっと私は違う私になっているのだろう。普段なら言えない愚痴や弱音を聞いたり慰めたり、かっこ悪いこの人をたくさん見ているのだろう。もし「能力を使っているわよね」と問い詰めれば、外に漏れてほしくない相談事をしているとでも言うに違いない。

 ――そうして想いを交わし、深く求めあっているのよね?

 体の変化くらい何も言われなくたって分かる。

 彼はいつも綺麗な顔で笑う。自分の考える理想の王子様でいるために。だから、何も知らなさそうな今のお飾りの私も彼の装飾品の一つのように必要とされている。

 もう一人の私に……どうしたって嫉妬する。

 辺りはすっかり夜だ。寮の門限が迫っている。体が重い。気怠い。眠い。

 ――私に何かしたわよね?
 
 聞けない言葉が私の頭をちらつく。

 ……他の人と浮気されるよりマシだ。他の女性にうつつを抜かされるくらいなら、自分と浮気される方がまだいい。

 でも――、少しくらい私のことだって。

 そっと彼の手に私の手を絡ませる。

「……っ」
「駄目でした?」
「いや、嬉しいよ」

 照れたように笑う彼の心は見えない。

 ちらりと彼が名残惜しそうに後ろに目をやった。きっと、さっきまで一緒にいた私にもう一度会いたいのだろう。「どうして手なんてつないだの」と、そちらの私に聞きたいのだろう。

 この人が誰よりも本音を見せているだろうもう一人の私は、あの場所にずっと縛られている。 

 ……私はどこへ向かっているのだろう。

 分からないまま、彼と歩く。
< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop