〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
 〈agent《エイジェント》〉はアプリをインストールすると特殊なコンピューターウイルスが作動する。アプリ利用者のスマートフォン端末の個人情報を抜き取るウイルスは、伶が“ジョーカー”と名付けた。

 伶のパソコンにはプレイヤーのゲーム内容とプレイ時間、ゲーム内の課金額、〈agent〉ゲームの情報が日経データとなって送られる。

 悪役体験型のクライムアクションゲームでは様々なストーリーが展開していく。バーチャル空間でプレイヤーは相手を殺すためのアイテムの課金をし、どのように殺すか考えを巡らせる。
全アイテムに課金した場合の最大金額は八万円だ。

警察や探偵に見つからないよう殺人を遂行できればゲームクリア、探偵に犯罪を見抜かれたり警察に捕まればゲームオーバー。

 東京二十三区在住、八万の課金、ゲームクリア率が高い、アプリ利用歴が3ヶ月以上、1日のプレイ時間が60分以上。
この条件をすべて満たしたプレイヤーから、さらに選りすぐって伶が選んだ利用者にのみ、次なるステージの扉が開かれる。

それが〈agentご依頼受付ホーム〉と呼ばれるエイジェントの管理者へのメール送信機能。
使い方は簡単。メッセージボードに殺人代行を依頼するために必要な、自分とターゲットの個人情報を入力して送信するだけ。

 送信した代行依頼メールは1時間後に利用者のアプリ内から自動的に消去される。
メッセージボードの〈ご依頼受付フォーム〉は〈ご意見受付フォーム〉に生まれ変わり、一見するとゲームの意見や感想をアプリの運営側に伝えるメッセージ機能にしか見えない。

 次にメッセージボードにエイジェントからメールが届くのは、エイジェント側が殺人代行の受付を完了した時。

これは依頼料の受け渡し方法のメールだ。利用者はエイジェントに指定された都内の駅のコインロッカーに依頼料の十万円を預け、コインロッカーの番号と取り出しに必要な暗証番号をメッセージボードのメール機能を使ってエイジェントに伝える。

 受け渡しに際してのエイジェントと利用者のメールも、十万円を受け取った後に伶が利用者のメッセージボードから二つのメールを削除している。万一、警察が利用者のアプリを調べても復讐代行依頼の形跡を発見できなくするためだ。

 これが復讐代行依頼の流れ。アプリ利用者の位置情報は利用者がアプリをスマートフォンにインストールしている限り、常にエイジェントに筒抜けだ。

依頼に必要な個人情報の記載は了承しても、位置情報までもエイジェントに抜き取られている実態を利用者は知らない。2ヶ月前の夏の夜、バイト帰りの芹沢小夏を殺すことも、彼女の位置情報を掌握する伶には容易だった。
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