〜Midnight Eden〜 episode4.【月影】
ブルーシートがかけられた増山の亡骸から離れた美夜は背後を一瞥する。規制線のテープの外側にはこの近辺の住民が集まってきているが、先ほどから妙な視線を感じていた。
「九条くん、駐車場の柵にもたれてるグレーのパーカーの男、わかる?」
『アイツだろ? 俺も気になってた。スマホ見てるフリしてこっちの様子を気にしてる。挙動不審だな』
ガード下を抜けた先の駐車場の柵に身体を預ける男は、手元のスマホに視線を落とす素振りをしながらも、ちらちらとこちらの様子を窺っていた。
南新宿駅は一本向こうの道にある。現場のガード下は捜査のために封鎖されているが、南新宿駅に行くにも他の道に出るとしても、封鎖されている道を通らなくても他の道で通り抜けは可能だ。
ここに留まって警察の動きを探るような男の挙動は明らかに不自然だった。再び男がこちらに視線を向けた時、美夜と九条と男、三点の視線が絡まった。
『待てっ!』
美夜達と目を合わせた途端に男の足が後ずさる。男が走り出すのとほぼ同時に九条の一声が響き渡り、美夜と九条は規制線の外に駆け出した。
住宅街の細道を一目散に駆ける男を九条の俊足《しゅんそく》が追いかける。長い細道の先端に差し掛かると男は迷わず左折した。
左折した道はゆるく傾斜のついた坂道だ。九条の後ろを走りながら、美夜はスマートフォンの位置情報を起動させた。
この先は道が十字路に分岐している。男がどの道に逃げ込むかわからないが、十字路の手前で拘束しなければ逃げ切られてしまう。
転がるように坂道を駆けた九条が男に追い付いた。十字路の手前のコインパーキングの前で、逃げ惑う男の腰に九条の屈強な腕が伸びて男の体を拘束する。
『離せよっ!』
『やましいことがないなら刑事と目が合っても逃げることないだろ?』
男はまだ暴れていた。見たところ二十代前半の香水の匂いがキツイ男だ。
彼らに追い付いた美夜は息切れをさせて膝に両手をつく。
「九条くん足速すぎ。元サッカー部エースの称号は伊達じゃないね……」
『おう。コイツどうする? 念のため身元確認だけはするか?』
「そうね。君、家か職場が近くにあるの? この辺りの道に詳しい人の走り方だったけど」
九条に両腕を拘束されてようやく観念した若年の男は目を見開いた。図星のようだ。
「野次馬をしていたのなら、あのガード下で殺人事件があったのも知ってるよね。殺されたのはこの付近に家がある君と同じ年くらいの大学生。被害者と君はもしかして顔見知り?」
『ふぅん。美人で頭もキレる女刑事か。最高じゃん』
美夜をじっと見据えていた男は、急に口元を上げてへらへらと笑い出した。眦《まなじり》を上げて男を睨み付ける美夜は、無言で男のパーカーのポケットやジーンズのポケットを探る。
「九条くん、駐車場の柵にもたれてるグレーのパーカーの男、わかる?」
『アイツだろ? 俺も気になってた。スマホ見てるフリしてこっちの様子を気にしてる。挙動不審だな』
ガード下を抜けた先の駐車場の柵に身体を預ける男は、手元のスマホに視線を落とす素振りをしながらも、ちらちらとこちらの様子を窺っていた。
南新宿駅は一本向こうの道にある。現場のガード下は捜査のために封鎖されているが、南新宿駅に行くにも他の道に出るとしても、封鎖されている道を通らなくても他の道で通り抜けは可能だ。
ここに留まって警察の動きを探るような男の挙動は明らかに不自然だった。再び男がこちらに視線を向けた時、美夜と九条と男、三点の視線が絡まった。
『待てっ!』
美夜達と目を合わせた途端に男の足が後ずさる。男が走り出すのとほぼ同時に九条の一声が響き渡り、美夜と九条は規制線の外に駆け出した。
住宅街の細道を一目散に駆ける男を九条の俊足《しゅんそく》が追いかける。長い細道の先端に差し掛かると男は迷わず左折した。
左折した道はゆるく傾斜のついた坂道だ。九条の後ろを走りながら、美夜はスマートフォンの位置情報を起動させた。
この先は道が十字路に分岐している。男がどの道に逃げ込むかわからないが、十字路の手前で拘束しなければ逃げ切られてしまう。
転がるように坂道を駆けた九条が男に追い付いた。十字路の手前のコインパーキングの前で、逃げ惑う男の腰に九条の屈強な腕が伸びて男の体を拘束する。
『離せよっ!』
『やましいことがないなら刑事と目が合っても逃げることないだろ?』
男はまだ暴れていた。見たところ二十代前半の香水の匂いがキツイ男だ。
彼らに追い付いた美夜は息切れをさせて膝に両手をつく。
「九条くん足速すぎ。元サッカー部エースの称号は伊達じゃないね……」
『おう。コイツどうする? 念のため身元確認だけはするか?』
「そうね。君、家か職場が近くにあるの? この辺りの道に詳しい人の走り方だったけど」
九条に両腕を拘束されてようやく観念した若年の男は目を見開いた。図星のようだ。
「野次馬をしていたのなら、あのガード下で殺人事件があったのも知ってるよね。殺されたのはこの付近に家がある君と同じ年くらいの大学生。被害者と君はもしかして顔見知り?」
『ふぅん。美人で頭もキレる女刑事か。最高じゃん』
美夜をじっと見据えていた男は、急に口元を上げてへらへらと笑い出した。眦《まなじり》を上げて男を睨み付ける美夜は、無言で男のパーカーのポケットやジーンズのポケットを探る。