イノセント
4人の客をとり、仕事を終えたのは深夜3時。

繁華街から少し外れた場所にある、年季の入ったアパート。

シングルベッド、簡易的なテーブル、冷蔵庫くらいしか置いていないこの殺風景なワンルームが私の住処。

シャワーを浴びると、目には見えない全身にこびりついた汚れが少し落ちる気がした。

保証人要らずのこのアパートに住むようになって一年が経った。

1日何人の客をとる、というノルマは決めていないし、お金を貯めて何かしたいだなんて目標もない。

ただ、人と関わりを持たずにあの街灯の下で客をとる毎日。

ベッドに寝転んで、天井のシミをぼんやりと見つめる。

ー生まれたくなかったー

物心ついた頃から、こんな人生終わりにしたいと、何回思ったことだろう。

嫌な記憶は思い出したくなくても脳に浮かんでくる。

ベッドから起き上がり、薬袋から取り出した眠剤を飲む。

月に一度通っているメンタルクリニックで処方された眠剤は、体に合っていてしばらくすると眠気が私を襲う。

「…大丈夫。これで、ゆっくり眠れる」

大丈夫、大丈夫。
自分自身に言い聞かせながら、再びベッドに潜り込む。

睡魔が私を攫う。
強制的に瞼が閉じていく時、赤黒い炎が見えた気がした。
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