野いちご源氏物語 第二巻 帚木(ははきぎ)
源氏(げんじ)(きみ)秘密主義(ひみつしゅぎ)でいらっしゃった。
世間から「(ひか)(きみ)」なんて呼ばれていることはご存じだったから、自分の女性関係のせいで世間を幻滅(げんめつ)させてはいけないとお思いになっていたのかしら。
でも秘密って、いつでも私みたいな(うわさ)好きの人間に暴露(ばくろ)されていくものだから。

まぁ実際のところ、源氏の君は真面目(まじめ)でいらっしゃったわ。
少なくとも表面上はね。
物語にはもっと女好きな男だって出てくるでしょう。
そういうのに比べたら、源氏の君はお上品だったと言ってもいいんじゃないかしら。

源氏の君が十七歳くらいのころのお話よ。
まだほとんど内裏(だいり)でお暮らしになっていて、ときどき左大臣(さだいじん)(てい)婿君(むこぎみ)としてお通いになっていた。
左大臣(さだいじん)様は、
「なぜ我が家で暮らしてくださらないのだろう。まさか内裏の女房(にょうぼう)などを相手に遊んでいらっしゃるのでは」
とお疑いになることもあった。
でも源氏の君は、そういう気楽で苦労のない女遊びはお嫌いなの。
逆に言えば、面倒(めんどう)な恋ほど本気になってしまわれるということ。
そんなときにはご身分(みぶん)にふさわしくない行動をなさることも、まぁ、なくはなかったわね。
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