〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
知佳の視線が雪枝に向いている隙に、美夜は腋の下のホルスターから銃を引き抜いた。本部からの発砲許可はまだ降りないが、知佳が構える銃器の口がいつ、誰かに向けられるかわからない。
「雪枝も結局は恵まれてる側よ。私に言わせれば、毒親でも父親がちゃんとした会社の役員なだけマシ。あんただって顔は可愛い部類に入るし、この国では金持ちで見た目がそこそこ良ければそれだけで勝ち組になれる。父親が借金残していなくなった家族がどうなるか、ここにいるお嬢様達は想像もつかないでしょうね」
他人の容姿への評価に疎い美夜から見た知佳は、突出して不器量ではなく、かといって器量よしとも言い難い。
視界に捕らえ続けなければ、四十人の女が押し込められた教室内で知佳の姿は紛れて消えてしまう。とにかく印象の薄い容貌だった。
「友達だよって……言ってくれたよね?」
「ごめんねぇ。私、あんた嫌いなの。金持ちで可愛いくせに不幸背負った顔してムカつく。本当の不幸がどんなものかも知らないのにさ。ついでに水穂も嫌い。二人揃って、好きな男のことでウジウジして鬱陶しい。チャットであんた達のいいお母さん代わりをやってる未季《みき》さんも嫌い。滝本さんも正義感の塊のヒーローぶってて嫌い、他の奴らは論外。あんたを友達だとか仲間だとか、思ったことは一度もないよ」
ここまでの犯罪を共に行った仲間達を知佳は平然と酷評する。
性格は顔に表れるとはよく言ったものだ。突出して不器量ではないはずの知佳の薄顔は、醜悪《しゅうあく》に歪んでいた。
聞こえてきたのは裏切りに傷付いた少女のすすり泣き。十代の脆い心は、信じていた人間に嫌いと言われただけで簡単に砕け散った。
「……九条さんごめんなさい……、私、もう無理。もう嫌だ……」
『雪枝ちゃん、待つんだ。それを手離してこっちにおいで』
雪枝は銃を頑《かたく》なに離さない。
感受性が強くて傷付きやすい雪枝の心の、最後のシールドがあの銃だ。あんな価値のない代物が御守りになってしまう雪枝も、他人への妬みを連呼する知佳も、心を病んでいる。
「夏木さんや九条さん達が言った言葉……その通りだよね。私も悪いことしてる。夏木さんにされた以上のことを私はしてしまった。友達だと思ってた人には嫌われていた。もう、死にたいの……こんな生きにくい世界で生きていたくない。きっとお父さんとお母さんも、私のこと嫌いになった。九条さんはイイコじゃなくてもいいって言ってくれたけど、お父さんもお母さんもイイコじゃない本当の私を知って幻滅してる……。だってあの人達は、ワガママを言わない“イイコの雪枝”が好きなんだもん……」
押しても引いても変化のないこの状況に、美夜はいい加減飽き飽きしている。いじける雪枝の涙の独白に、真面目に耳を傾けているのは九条のみ。
雪枝の親子関係も美夜にはどうでもいい。親にとってイイコだろうがイイコじゃなかろうが、親に幻滅される覚悟の立てこもりではなかったのか?
舞を屈服させるためだけに滝本達に加担したのだとすれば、確かに雪枝は甘ったれたお嬢さんだ。
「雪枝も結局は恵まれてる側よ。私に言わせれば、毒親でも父親がちゃんとした会社の役員なだけマシ。あんただって顔は可愛い部類に入るし、この国では金持ちで見た目がそこそこ良ければそれだけで勝ち組になれる。父親が借金残していなくなった家族がどうなるか、ここにいるお嬢様達は想像もつかないでしょうね」
他人の容姿への評価に疎い美夜から見た知佳は、突出して不器量ではなく、かといって器量よしとも言い難い。
視界に捕らえ続けなければ、四十人の女が押し込められた教室内で知佳の姿は紛れて消えてしまう。とにかく印象の薄い容貌だった。
「友達だよって……言ってくれたよね?」
「ごめんねぇ。私、あんた嫌いなの。金持ちで可愛いくせに不幸背負った顔してムカつく。本当の不幸がどんなものかも知らないのにさ。ついでに水穂も嫌い。二人揃って、好きな男のことでウジウジして鬱陶しい。チャットであんた達のいいお母さん代わりをやってる未季《みき》さんも嫌い。滝本さんも正義感の塊のヒーローぶってて嫌い、他の奴らは論外。あんたを友達だとか仲間だとか、思ったことは一度もないよ」
ここまでの犯罪を共に行った仲間達を知佳は平然と酷評する。
性格は顔に表れるとはよく言ったものだ。突出して不器量ではないはずの知佳の薄顔は、醜悪《しゅうあく》に歪んでいた。
聞こえてきたのは裏切りに傷付いた少女のすすり泣き。十代の脆い心は、信じていた人間に嫌いと言われただけで簡単に砕け散った。
「……九条さんごめんなさい……、私、もう無理。もう嫌だ……」
『雪枝ちゃん、待つんだ。それを手離してこっちにおいで』
雪枝は銃を頑《かたく》なに離さない。
感受性が強くて傷付きやすい雪枝の心の、最後のシールドがあの銃だ。あんな価値のない代物が御守りになってしまう雪枝も、他人への妬みを連呼する知佳も、心を病んでいる。
「夏木さんや九条さん達が言った言葉……その通りだよね。私も悪いことしてる。夏木さんにされた以上のことを私はしてしまった。友達だと思ってた人には嫌われていた。もう、死にたいの……こんな生きにくい世界で生きていたくない。きっとお父さんとお母さんも、私のこと嫌いになった。九条さんはイイコじゃなくてもいいって言ってくれたけど、お父さんもお母さんもイイコじゃない本当の私を知って幻滅してる……。だってあの人達は、ワガママを言わない“イイコの雪枝”が好きなんだもん……」
押しても引いても変化のないこの状況に、美夜はいい加減飽き飽きしている。いじける雪枝の涙の独白に、真面目に耳を傾けているのは九条のみ。
雪枝の親子関係も美夜にはどうでもいい。親にとってイイコだろうがイイコじゃなかろうが、親に幻滅される覚悟の立てこもりではなかったのか?
舞を屈服させるためだけに滝本達に加担したのだとすれば、確かに雪枝は甘ったれたお嬢さんだ。