〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 上空を騒がせる音の正体は警視庁特殊急襲部隊、通称SATのヘリだ。
A棟の屋上プールの屋根が開閉式と聞いた時点で、美夜はSATのヘリ出動を上野一課長に進言した。

ヘリからロープをつたってプールサイドに降りれば、五階まで容易く辿り着ける。だがこの案には致命的な欠点がある。

 ヘリの到着は早すぎても遅すぎてもいけない。早すぎた場合は、警察のヘリだと気づいた犯人グループが逆上して人質を射殺する恐れがある。

遅すぎた場合は爆弾の解体に間に合わない。
美夜達とSITが、ある程度現場を制圧していること、それがヘリ出動の条件だ。

 教室に雪崩《なだ》れ込むSATの隊員と救急隊員、そして爆発物処理班。
引き裂いたカーテンで美夜に止血を施されていた知佳は、周りをSATに囲まれても憮然とした泣き笑いを繰り返し、赤い血にまみれた両手には手錠がかけられた。

4時間近く椅子に拘束されていた舞は、担架に乗せられ一足先に教室から運ばれる。舞の足元に鎮座していた爆弾は爆発物処理班の手で解体、15時49分に爆弾のタイマーは停止した。


        *

 人工芝のグラウンドをヘリポート代わりにしたSATのヘリが、冬茜《ふゆあかね》の空に飛び立った。ヘリの離陸を見届けた美夜の頬を冷たい北風がなぞる。

 コートのポケットに両手を突っ込み、彼女はグラウンドに面した小道を折り返した。
滝本航大と格闘戦を繰り広げた中庭は一部が規制線のテープで囲われている。黄色のテープで囲われた内側には、梶浦が美夜を狙撃した際に銃弾が直撃した地面があった。

規制線の外側のベンチに木崎愁が座っている。
スマホで通話中の彼は中庭の入り口で立ち止まる美夜を視界に捉えると、こっちへ来いと自分の隣を指で指し示した。

 近付くにつれて鮮明に聞こえる愁の声は疲れきっている。彼の口調からして通話相手はおそらく、夏木コーポレーションの幹部だ。

話をするのも面倒らしく、愁は通話相手の話をけだるげに聞き流していた。美夜が愁の隣に着席して数分後、ようやく彼は耳に当てたスマートフォンから解放された。
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