〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 今朝のテレビのニュース、新聞、SNSや動画配信アプリ、各報道媒体はこぞって夏木コーポレーションの不祥事を騒ぎ立てている。

 昨夜21時頃、夏木コーポレーションの徳田社長が本社ビル前で報道陣の取材に応じた。
千葉県 館山《たてやま》市のNATSUKIリゾートシーグラス館山と併設のショッピングモール建設に際して、館山市民との間にトラブルがあった事実を社長は認めた。

トラブルの詳細な内容は現在調査中、会長の娘のいじめ問題について、社長の自分から言えることはないと言葉を濁して徳田社長は早々に取材を終わらせたが、今朝のニュース番組はどのテレビ局も紅椿学院高校立てこもり事件の一部始終と、徳田社長の簡素な質疑応答、夏木十蔵の醜聞を垂れ流していた。

「10時からは河原水穂の聴取ね。長くなりそう」
『水穂は立てこもりと月曜日の切り裂きジャックと紺野萌子の殺害、聴取内容が他の奴らより多いからな』

 河原水穂は、弟と共謀した月曜日の切り裂きジャックの犯行も紺野萌子殺害も罪を認めている。

 月曜日の切り裂きジャック事件に関しては弟の勇喜にもいくつか確認事項があるが、勇喜と水穂はトークアプリの通話機能を使って犯行計画のやりとりを交わしていた。

メッセージと違い、通話はトーク画面上には着信や通話時間の履歴が残るだけ。互いが録音でもしない限り、外部には犯行計画が漏れない。

どちらかが先に捕まり、警察にスマートフォンを押収された場合の保険だったと昨夜の聴取で水穂は述べていた。

 水穂の犯行は勇喜にアリバイがある一件目と四件目の事件だ。第一、第四の犯行を水穂が、第二、第三、第五の犯行を勇喜が行っていた。

 最初の被害者の小学一年生の女子児童が犯人を男だと証言したのも、女性にしては高めの水穂の身長とショートカットのヘアスタイルで男性と見間違えたためだ。

犯行に使用する際に二人が着用した、上下黒のスエットとパーカーの格好は服装による性差の判別は難しい。パーカーのフードを被って顔を隠してしまえば、水穂が細身の男性に見えても無理はない。

 水穂の身長は170センチ、勇喜の身長は172センチ。血の繋がった姉と弟の二人は容貌も似ており、二人で一人の切り裂きジャックを演じるにはうってつけ。

 月曜日の切り裂きジャックは、勇喜と水穂の歪んだ憧れが産み出した怪物だった。彼らの憧れの対象は、21世紀の切り裂きジャックと一部の人間に熱狂的に持て囃《はや》された陣内克彦だ。

「ここまで陣内の事件が尾を引いてくるとはね」
『三人の教え子を犯罪者に仕上げた陣内は、今頃何を思ってるんだろうな』
「何も思ってないよ。あの男にとっては、すべてが自分の殺人衝動を満たす駒。水穂には可哀想だけど、陣内は人への愛情を欠片も持たない男だと思う」

 紺野萌子と河原水穂の間には二人の男を巡る揉め事が起きていた。
勇喜の事件直後に匿名チャットアプリ内で萌子と会話をしていた水穂は、萌子から同級生が逮捕された話を聞かされる。

それをきっかけに互いの素性を知るに至った二人だが、以前から聞き及んでいた水穂の片想いの相手が陣内だと知った萌子の無意識のマウント発言が、水穂の殺人衝動の導火線に火をつけた。
< 109 / 185 >

この作品をシェア

pagetop