〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
プロトタイプの被験者は、警視庁刑事総務課の横山博和《よこやま ひろかず》刑事と交通総務課の衛藤夕夏梨《えとう ゆかり》刑事。矢野から紹介を受けた二人は立ち上がり、美夜達に黙礼する。
『横山刑事にはスズキケン、衛藤刑事にはハセベアヤカ、同姓同名が多くいそうな架空の人物をスマートフォンの中で演じてもらいました。プロトタイプケースは現実の世界ではなく、スマートフォンで起きているデータの世界がポイントになります。〈agent〉の管理者は画面上のデータにしか興味がない。だからデータ上は、スズキケンもハセベアヤカも存在する“設定”をこちらが作ればいいと考えたんです』
事細かに設定されたスズキケンとハセベアヤカの経歴や性格、趣味嗜好にSNSのアカウントがモニターに映し出された。
矢野とサイバー犯罪対策課によって生み出されたスマートフォンの世界に生きる架空の男女は、どこにでもいそうな普遍的な人物設定だ。
①スズキケンは三十一歳の会社員。
交際3年で婚約までした彼女が友人と浮気、恋人と友人を一気に失った彼は、彼女と浮気相手の友人を恨んでいる。
ミソジニー、女に求める理想が高い、婚活アプリ利用者。とにかく結婚がしたい。
②ハセベアヤカは二十六歳のOL。
生き甲斐である二次元の推しキャラへの課金は惜しまないが、同時に推しに容姿が酷似したホストへの貢ぎ癖が止まらない。
同担拒否傾向。同じホストを指名する被り客との間にトラブルがあり、8月に店を出禁。被り客の女を邪魔に思っている。
架空のスズキケンやハセベアヤカのような男女は現実にありふれている。二人が密かに抱えるダークサイドも、ありそうな話だ。
『エイジェント側には位置情報が筒抜けですから、スズキケンは江戸川区在住の職場も江戸川区、ハセベアヤカは目黒区在住の職場が渋谷区という位置情報の設定です。この実験のために、被験者のお二人には偽の住居と偽の職場をそれぞれ用意し、9月から11月までの3ヶ月間こちらが指定した場所で〈agent〉ゲームをプレイする生活を過ごしてもらいました』
住居や職場まで用意して、随分手の込んだ実験だ。そうまでして矢野と警察は〈agent〉の何を突き止めようとしている?
『先陣を切ったのはプロトタイプの横山刑事達でしたが、プロトタイプも最初はデータが少ない状況での手探り状態でした。後半2ヶ月間は、ケース1の被験者達のサンプルデータが助けとなり、第二の仕掛けを施しました』
マイクを握る矢野の手にかすかに力が込められた。上野一課長と目を合わせた矢野は、上野の頷きを合図に再び口を開く。
『3ヶ月間の横山刑事と衛藤刑事の尽力もあり、こちらが張った罠に相手は食いついた。スズキケンのアプリには12月1日、ハセベアヤカのアプリには12月3日に、エイジェント側から“あるメール”が届きました。これが〈agent〉の正体です』
モニターに現れた文字は〈agentご依頼受付フォーム〉
フォームには十数個の質問事項と個人情報記入欄があり、一見するとアプリ使用に関するアンケートにも見える。
『横山刑事にはスズキケン、衛藤刑事にはハセベアヤカ、同姓同名が多くいそうな架空の人物をスマートフォンの中で演じてもらいました。プロトタイプケースは現実の世界ではなく、スマートフォンで起きているデータの世界がポイントになります。〈agent〉の管理者は画面上のデータにしか興味がない。だからデータ上は、スズキケンもハセベアヤカも存在する“設定”をこちらが作ればいいと考えたんです』
事細かに設定されたスズキケンとハセベアヤカの経歴や性格、趣味嗜好にSNSのアカウントがモニターに映し出された。
矢野とサイバー犯罪対策課によって生み出されたスマートフォンの世界に生きる架空の男女は、どこにでもいそうな普遍的な人物設定だ。
①スズキケンは三十一歳の会社員。
交際3年で婚約までした彼女が友人と浮気、恋人と友人を一気に失った彼は、彼女と浮気相手の友人を恨んでいる。
ミソジニー、女に求める理想が高い、婚活アプリ利用者。とにかく結婚がしたい。
②ハセベアヤカは二十六歳のOL。
生き甲斐である二次元の推しキャラへの課金は惜しまないが、同時に推しに容姿が酷似したホストへの貢ぎ癖が止まらない。
同担拒否傾向。同じホストを指名する被り客との間にトラブルがあり、8月に店を出禁。被り客の女を邪魔に思っている。
架空のスズキケンやハセベアヤカのような男女は現実にありふれている。二人が密かに抱えるダークサイドも、ありそうな話だ。
『エイジェント側には位置情報が筒抜けですから、スズキケンは江戸川区在住の職場も江戸川区、ハセベアヤカは目黒区在住の職場が渋谷区という位置情報の設定です。この実験のために、被験者のお二人には偽の住居と偽の職場をそれぞれ用意し、9月から11月までの3ヶ月間こちらが指定した場所で〈agent〉ゲームをプレイする生活を過ごしてもらいました』
住居や職場まで用意して、随分手の込んだ実験だ。そうまでして矢野と警察は〈agent〉の何を突き止めようとしている?
『先陣を切ったのはプロトタイプの横山刑事達でしたが、プロトタイプも最初はデータが少ない状況での手探り状態でした。後半2ヶ月間は、ケース1の被験者達のサンプルデータが助けとなり、第二の仕掛けを施しました』
マイクを握る矢野の手にかすかに力が込められた。上野一課長と目を合わせた矢野は、上野の頷きを合図に再び口を開く。
『3ヶ月間の横山刑事と衛藤刑事の尽力もあり、こちらが張った罠に相手は食いついた。スズキケンのアプリには12月1日、ハセベアヤカのアプリには12月3日に、エイジェント側から“あるメール”が届きました。これが〈agent〉の正体です』
モニターに現れた文字は〈agentご依頼受付フォーム〉
フォームには十数個の質問事項と個人情報記入欄があり、一見するとアプリ使用に関するアンケートにも見える。