〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
だが、時折現れる“ターゲット”の単語と最後の締め括りの言葉が、これがただのアンケートフォームではないことの何よりの証明だった。
締め括りの一文が〈agent〉の本性だろう。
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アプリの存在とエイジェントに関する情報は口外しないように。あなたの個人情報はエイジェントに届いています。
これは契約です。契約違反の場合、次に殺されるのはあなたかもしれない……。
__________
最前列の上野一課長がマイクを握って立ち上がった。
『特命捜査対策室と連携して捜査中の連続絞殺事件は、このエイジェントアプリと関係があるのではと我々は睨んでいる。agentとは、つまり殺人代行の意味だろう』
以前から連続絞殺事件の捜査本部では殺人代行の可能性を示唆されてきたが、誰がどのようにしてそれを行えるのか、沸いて出る疑問点に誰もが匙《さじ》を投げていた。
『矢野が〈agent〉の中毒性と加虐性について述べたが、アプリの利用者は特定の人間への強い恨みの感情を抱き、憎い人間のアバターを作成して、現実世界ではタブーとされる犯罪行為をゲームの世界で実行している。この仮説を裏付けてくれる証拠が、連続絞殺事件の被害者、夏に殺害された芹沢小夏のアプリデータにある。彼女は〈agent〉の利用者だった』
〈agent〉アプリ内で小夏がターゲット用に作成したアバターの名前はアイカ。
ゲームの世界で“アイカ”は、“コナツ”に銃で撃たれ、刃物に刺され、最後は全身を焼かれて命を落とす。
すべて芹沢小夏がagentでプレイしたストーリーだ。
『ゲーム内で殺される役割の“アイカ”は芹沢小夏の友人の来栖愛佳と思われる。小夏は頻繁に匿名掲示板にアクセスして、来栖愛佳の悪口を書き込んでいた。もうひとり、こちらは連続絞殺事件とは別件の被害者だが、江東区看護師殺害の被害者、下山祐実もagentアプリの利用者であり、祐実が攻撃していたアバターの名前は“リセ”。祐実を殺害した玉置理世のことだろう』
芹沢小夏は来栖愛佳(アイカ)を、下山祐実は玉置理世(リセ)をゲームの中で殺していた。奇しくも小夏は連続絞殺事件の被害者となり、祐実はゲームの中で殺していた理世に、現実世界で殺されている。
『芹沢小夏と下山祐実の使い道が不明な十万の謎も、受付フォームの下二つの項目を見れば明らかだ』
下二つの項目は依頼料金の説明だ。
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15.ご依頼メッセージ送信後、3週間以内に現金で10万円の依頼料を頂きます。
3週間以内に10万円の用意は可能ですか?
16.ご依頼メッセージ送信後、48時間以内に依頼料の入金方法のメッセージがアプリ内に届きます。
入金の確認後、遅くとも3ヶ月以内には代行依頼を遂行致します。
依頼人の安全とアリバイ確保のため決行日は伏せさせていただきます。
代行を終えた暁にはエイジェントからアプリ内にメッセージが届きますのでご確認下さい。
__________
家族でさえも使用目的に心当たりのない芹沢小夏と下山祐実の十万円の行方も、エイジェントへの殺人代行の依頼料と考えれば合点がいく。
そしておそらく、下山祐実は殺人代行のターゲットに指名した玉置理世に一足違いで殺された。
エイジェントの動きが理世よりも早ければ、祐実の依頼を受けたエイジェントが理世を殺していたかもしれない。
締め括りの一文が〈agent〉の本性だろう。
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アプリの存在とエイジェントに関する情報は口外しないように。あなたの個人情報はエイジェントに届いています。
これは契約です。契約違反の場合、次に殺されるのはあなたかもしれない……。
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最前列の上野一課長がマイクを握って立ち上がった。
『特命捜査対策室と連携して捜査中の連続絞殺事件は、このエイジェントアプリと関係があるのではと我々は睨んでいる。agentとは、つまり殺人代行の意味だろう』
以前から連続絞殺事件の捜査本部では殺人代行の可能性を示唆されてきたが、誰がどのようにしてそれを行えるのか、沸いて出る疑問点に誰もが匙《さじ》を投げていた。
『矢野が〈agent〉の中毒性と加虐性について述べたが、アプリの利用者は特定の人間への強い恨みの感情を抱き、憎い人間のアバターを作成して、現実世界ではタブーとされる犯罪行為をゲームの世界で実行している。この仮説を裏付けてくれる証拠が、連続絞殺事件の被害者、夏に殺害された芹沢小夏のアプリデータにある。彼女は〈agent〉の利用者だった』
〈agent〉アプリ内で小夏がターゲット用に作成したアバターの名前はアイカ。
ゲームの世界で“アイカ”は、“コナツ”に銃で撃たれ、刃物に刺され、最後は全身を焼かれて命を落とす。
すべて芹沢小夏がagentでプレイしたストーリーだ。
『ゲーム内で殺される役割の“アイカ”は芹沢小夏の友人の来栖愛佳と思われる。小夏は頻繁に匿名掲示板にアクセスして、来栖愛佳の悪口を書き込んでいた。もうひとり、こちらは連続絞殺事件とは別件の被害者だが、江東区看護師殺害の被害者、下山祐実もagentアプリの利用者であり、祐実が攻撃していたアバターの名前は“リセ”。祐実を殺害した玉置理世のことだろう』
芹沢小夏は来栖愛佳(アイカ)を、下山祐実は玉置理世(リセ)をゲームの中で殺していた。奇しくも小夏は連続絞殺事件の被害者となり、祐実はゲームの中で殺していた理世に、現実世界で殺されている。
『芹沢小夏と下山祐実の使い道が不明な十万の謎も、受付フォームの下二つの項目を見れば明らかだ』
下二つの項目は依頼料金の説明だ。
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15.ご依頼メッセージ送信後、3週間以内に現金で10万円の依頼料を頂きます。
3週間以内に10万円の用意は可能ですか?
16.ご依頼メッセージ送信後、48時間以内に依頼料の入金方法のメッセージがアプリ内に届きます。
入金の確認後、遅くとも3ヶ月以内には代行依頼を遂行致します。
依頼人の安全とアリバイ確保のため決行日は伏せさせていただきます。
代行を終えた暁にはエイジェントからアプリ内にメッセージが届きますのでご確認下さい。
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家族でさえも使用目的に心当たりのない芹沢小夏と下山祐実の十万円の行方も、エイジェントへの殺人代行の依頼料と考えれば合点がいく。
そしておそらく、下山祐実は殺人代行のターゲットに指名した玉置理世に一足違いで殺された。
エイジェントの動きが理世よりも早ければ、祐実の依頼を受けたエイジェントが理世を殺していたかもしれない。