〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 芹沢小夏は自身が気づかないうちに依頼人から殺人代行のターゲットに移行していた。何者かが、過去3ヶ月以内に小夏の殺害をエイジェントに依頼していたとすれば、誰が依頼人?

依頼人は来栖愛佳が怪しいとの声も挙がる中、話はご依頼受付フォームの出現条件に進む。

 話の主導権は上野から矢野に戻された。

『ご依頼受付フォームは、どの利用者にも等しく届くものではなさそうです。受付フォームが届く条件を、プロトタイプとケース1の被験者のプレイ内容、芹沢小夏、下山祐実のプレイ内容、連続絞殺事件で被害者に恨みを持つ人間の居住地のデータを統合して導き出しました。ご依頼受付フォームの出現条件はモニターをご覧の通りです』

 アプリの課金は最高額の八万円、プレイ内容の残虐性は五段階の四か五レベル、1日当たりの平均プレイ時間が60分以上、スマートフォン端末の位置情報は東京二十三区内。

プロトタイプとケース1がまったく同じ条件にも関わらず、ケース1の被験者にご依頼受付フォームが届かなかった原因は、位置情報が警視庁だった点にある。

 エイジェントは殺人代行の招待状を送る相手を、位置情報やゲーム内容により選定していると仮説付けられた。

 クライムアクションゲームを警察が容認する理由は犯罪行為をバーチャルで体感し、日頃のストレスをゲーム内で発散できるため。バーチャル世界でも犯罪行為を禁じてしまえば、発散できない怒りや復讐心は現実に向かう。

趣味嗜好を国に管理、抑制された世界では国民の暴動が起きるだろう。しかし現代の日本では、趣味嗜好の選択の自由は認められている。

 クライムアクションゲームを好んだとして社会から排斥《はいせき》されはしないが、利用者はリアルとフィクションの境界線を失ってはいけない。

けれどエイジェントは利用者の秘めた復讐心に巧みに入り込み、復讐の種に肥料をやり、水を注ぐ。ご依頼受付フォームはまさに差し出された悪魔の手。

 〈agent〉アプリの配信元は夏木コーポレーションの子会社であるエバーラスティング。エイジェントとジョーカー、どちらも共通点は夏木十蔵の存在だ。

 連続絞殺事件の犯人を仮名でエイジェントとし、夏木十蔵専属の殺し屋、ジョーカーの犯行性質とエイジェントの犯行性質を比較したグラフがモニターに映った。

『殺人代行を請け負うエイジェントの犯行の性質は、ジョーカーとは合致しない。ジョーカーと連続絞殺犯、エイジェントは別人の線が濃厚だ』

以上が上野一課長と矢野、特命捜査対策室が出した見解の総意。美夜も彼らの見解に同意だ。

ゲームアプリを用いて犯罪者予備軍を探しだし、彼らの復讐心を代行する……そんなまどろっこしい手法を、愁が好むとは思えない。

 今日の18時には木崎愁の聴取が予定されている。
名目は先日の学校立てこもり事件の聴取だが、美夜と九条が装着していたカメラの映像を見れば明らかな事象の話に、わざわざ時間は割かない。

エイジェントの話題を切り込まれた時、愁はどんな反応を見せるだろう?


 ──“ジョーカーは二人いる”──


 犯罪組織カオスのキングの言葉が真実ならば、二人目のジョーカーは……。
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