〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 美夜の中に侵入した愁はゆっくりと時間をかけて、ぐちゃぐちゃにとろけた彼女の奥を優しく激しく犯し続けた。

 薬指に鈴蘭の指輪が光る美夜の左手と愁の右手が淫靡《いんび》に絡まった。そのうち右手と左手も指を絡めて、ぎゅっと強く互いを握る。

汗ばんだ美夜の乳房と汗ばむ愁の胸板がぴたりと寄り添い、快楽に啼《な》く美夜の声は愁の唇に封じられた。

 美夜の最奥めがけ、どくどく、どくどく、彼女の中で膨らんだ愁の分身が脈打って、どろどろの欲を解放する。愁が吐き出す白い蜜の味は、退廃的で耽美な背徳の味。

 しわくちゃのシーツの上でしばし二人は無言で果てる。愁はすぐには出ていかず、名残惜しげに美夜の奥を堪能し続けていた。

こうしている間にも、美夜の奥は愁に注がれた白い蜜をごくごくと飲み干している。もしもその蜜の種が子宮に届いたなら、別の人格を持つひとりの人間が美夜の内部に宿るだろう。

汚ならしく情欲を貪る行為が子作りと同義だなんて、堕落と生命の神秘は紙一重。

 逃避行の情事に避妊も妊娠もくそ食らえ。避妊具の用意さえなく欲を貪る自分達は、子を宿す資格のない最低な大人だ。

 別荘に滞在して3日目。喉が渇けば酒を口移しに呷《あお》り、小説を読んでいたかと思えば読書を放棄してセックスをして、泥のように眠る。

そんな自堕落の日々を繰り返していては、女刑事が主人公の小説のページがまったく進まないのは当然のこと。

コーヒーとケーキの愛らしい匂いが消え去った室内は、バニラに似た甘い香りの煙草と二人分の体液のすえた臭いが交ざり合う欲の沼だ。

 畳の上であぐらを掻きながら煙草を咥える愁と、乱れたシーツにしがみついて裸で寝そべる美夜。
事後の美夜は、隣で煙草を燻《くゆ》らせる愁の口元や手元を直視できなかった。

 煙草を咥える唇がどこに押し当てられ、舌がどこを這い、煙草を持つ指先がどこに触れたか、美夜の身体は記憶している。

理性を取り戻した状態で愁の唇や指を視界に捕らえるたび彼女は羞恥に襲われて、けれど無意識に視点は恋しい相手に固定された。

 上と下で目が合ってそらして、また目が合ってそらす、瞳の駆け引きの繰り返し。次第に熱を増す視線の交わりに降参した美夜は、身体を毛布に潜り込ませた。

羞恥に狼狽える美夜の挙動に愁は笑って、毛布に隠れた彼女の頭に片手を伸ばす。

『さっきから何してんだ。恥ずかしがり屋のカクレンボ?』
「ほっといて」
『顔こっちに見せろよ。寂しいだろ?』

 熱っぽい頬を枕に擦り付けて拒否しても、どうせ駆け引きは美夜の負けだ。
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