〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
『ここだけの話、姉ちゃんは陣内先生が好きだった。たぶん今でも先生が好きだと思う』
「その話を私に言うと、ここだけの話じゃなくなるよ?」
『だから言いふらすような友達が紺野にはいないだろ?』
昼休みの間に、二度も友達がいないと言われてしまった。反論もできずに膨れっ面でサンドイッチを貪る萌子を、勇喜が見下ろして笑っている。
言いふらせる友達もいなければ、言いふらすつもりもない。生徒が教師を好きになる話はありふれている。
利用している匿名チャットアプリで萌子が知り合った女性も、卒業した母校の教師への片想いを引きずっていると打ち明けてくれた。皆、顔見知りには言えない秘密の恋をしているのだ。
『お前、拗ねてる時に顔がまんまるになるんだな』
「笑いすぎ……っ!」
見上げる萌子と見下ろす勇喜。笑うとできるえくぼが可愛い勇喜と視線を合わせた彼女の心が、瞬《またた》く間にそわそわと騒いだ。
心の奥に生まれたそわそわの感覚は、前にも経験がある。今の萌子には、確実にわかることがあった。
萌子は陣内が好きだった。今にして思えば、陣内が萌子の初恋だ。
陣内を好きだと言う勇喜の姉への少しの嫉妬と優越感。けれどもうひとつ生まれた、勇喜に対する個人的な感情の狭間で萌子の心は騒がしかった。
少し前まで嫌いだった人。
少し前まで心を占めていた二度と会えない人。
キライとスキの狭間はなに?
スキなヒトとスキなヒトの狭間はなに?
また彼と目が合う。寝そべる勇喜の真っ暗な瞳に吸い込まれた萌子は、そこから抜け出せない。
欲しいと思う、独占欲。
良いもの見つけた、アレが欲しい。
欲しい。欲しい。アレが欲しい。
「……そっち行っていい?」
『いいよ』
勇喜の三段下にいた萌子は恐る恐るの一歩を刻む。三段上がって踊り場に到着した彼女が勇喜の隣に腰を降ろした瞬間、彼に片腕を引っ張られた。
そのまま勇喜の胸元に飛び込んだ萌子は、彼の体温に身を任せる。冷たい北風が二人の上を通り過ぎるが、勇喜の胸元はとてもあたたかい。
左胸に耳を近付けると彼が生きている音が伝わってきた。抱き締める腕の力は強くなり、頭を撫でられてくすぐったい。
どちらが先に近付いたか不明の接触事故は自然に起きた。萌子ではなく勇喜が緊張していた気がしたのは、萌子はそれが初めてのキスではなかったから。
初恋もファーストキスも処女も継母の殺害依頼をした日に全部、陣内に捧げた。たぶんアレが、殺人の依頼料の代わりだ。
萌子を抱いている最中に陣内は何度もこうして気持ちのいいキスをしてくれた。最初は痛かったけれど、最後はとても気持ち良かった。
萌子の初めてのセックスの相手は、殺人犯の高校教師。
あの日の情景をひとつひとつ思い返して、萌子は勇喜の唇に陣内を重ねる。陣内がしてくれたキスを真似ても上手くはいかなかったけれど、萌子の行為に勇喜が翻弄される様は手綱を握れて気分が良かった。
彼女は勇喜の下半身に手を伸ばす。
「山岸くんのここ、キスだけで大きくなってきたね。もしかして童貞?」
『お前……』
「陣内先生にやり方を全部教わった。私をイジメている子達の中には処女の子も沢山いると思うのに、私はもうセックスを経験してるの。その子達よりも私は大人なんだ。ね、笑えるでしょ?」
秘密の犯罪を心に秘めた少女は少し前まで嫌いだった少年と、恋にも愛にもなりきれない未完成で未熟なキスを交わした。
「その話を私に言うと、ここだけの話じゃなくなるよ?」
『だから言いふらすような友達が紺野にはいないだろ?』
昼休みの間に、二度も友達がいないと言われてしまった。反論もできずに膨れっ面でサンドイッチを貪る萌子を、勇喜が見下ろして笑っている。
言いふらせる友達もいなければ、言いふらすつもりもない。生徒が教師を好きになる話はありふれている。
利用している匿名チャットアプリで萌子が知り合った女性も、卒業した母校の教師への片想いを引きずっていると打ち明けてくれた。皆、顔見知りには言えない秘密の恋をしているのだ。
『お前、拗ねてる時に顔がまんまるになるんだな』
「笑いすぎ……っ!」
見上げる萌子と見下ろす勇喜。笑うとできるえくぼが可愛い勇喜と視線を合わせた彼女の心が、瞬《またた》く間にそわそわと騒いだ。
心の奥に生まれたそわそわの感覚は、前にも経験がある。今の萌子には、確実にわかることがあった。
萌子は陣内が好きだった。今にして思えば、陣内が萌子の初恋だ。
陣内を好きだと言う勇喜の姉への少しの嫉妬と優越感。けれどもうひとつ生まれた、勇喜に対する個人的な感情の狭間で萌子の心は騒がしかった。
少し前まで嫌いだった人。
少し前まで心を占めていた二度と会えない人。
キライとスキの狭間はなに?
スキなヒトとスキなヒトの狭間はなに?
また彼と目が合う。寝そべる勇喜の真っ暗な瞳に吸い込まれた萌子は、そこから抜け出せない。
欲しいと思う、独占欲。
良いもの見つけた、アレが欲しい。
欲しい。欲しい。アレが欲しい。
「……そっち行っていい?」
『いいよ』
勇喜の三段下にいた萌子は恐る恐るの一歩を刻む。三段上がって踊り場に到着した彼女が勇喜の隣に腰を降ろした瞬間、彼に片腕を引っ張られた。
そのまま勇喜の胸元に飛び込んだ萌子は、彼の体温に身を任せる。冷たい北風が二人の上を通り過ぎるが、勇喜の胸元はとてもあたたかい。
左胸に耳を近付けると彼が生きている音が伝わってきた。抱き締める腕の力は強くなり、頭を撫でられてくすぐったい。
どちらが先に近付いたか不明の接触事故は自然に起きた。萌子ではなく勇喜が緊張していた気がしたのは、萌子はそれが初めてのキスではなかったから。
初恋もファーストキスも処女も継母の殺害依頼をした日に全部、陣内に捧げた。たぶんアレが、殺人の依頼料の代わりだ。
萌子を抱いている最中に陣内は何度もこうして気持ちのいいキスをしてくれた。最初は痛かったけれど、最後はとても気持ち良かった。
萌子の初めてのセックスの相手は、殺人犯の高校教師。
あの日の情景をひとつひとつ思い返して、萌子は勇喜の唇に陣内を重ねる。陣内がしてくれたキスを真似ても上手くはいかなかったけれど、萌子の行為に勇喜が翻弄される様は手綱を握れて気分が良かった。
彼女は勇喜の下半身に手を伸ばす。
「山岸くんのここ、キスだけで大きくなってきたね。もしかして童貞?」
『お前……』
「陣内先生にやり方を全部教わった。私をイジメている子達の中には処女の子も沢山いると思うのに、私はもうセックスを経験してるの。その子達よりも私は大人なんだ。ね、笑えるでしょ?」
秘密の犯罪を心に秘めた少女は少し前まで嫌いだった少年と、恋にも愛にもなりきれない未完成で未熟なキスを交わした。