〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
しかし行き着く先は男と女だ。そのつもりはなくとも今夜はどうなるか、すべては蘭子の気分次第。
「けれど今夜のお誘いは止めておく。冬悟と舞の話を聞いた後では、男と遊ぶ気分にもなれない。それにあなたには、まだ聞きたいことがあるの」
『俺は話の続きはベッドの中でも構いませんよ。部屋に行きますか?』
「そんなに乗り気のない顔でベッドに誘われても嬉しくないなぁ。今のあなたは女を抱きたいって顔をしていないのよ。自分の顔をよくご覧なさい」
正面の窓に映る自分の表情を愁は凝視した。普段と変わらないと思える愁の顔の横に、眉を下げて苦笑する蘭子が映り込んだ。
「意中の人ができたのかしら?」
『心当たりはありませんね』
「ふふっ。いつか私にも紹介してくださいね。木崎さんが本気になった人に興味があるわ」
蘭子の会話についていけない。珍しくたじろぐ愁を横目に、蘭子はひとりでくすくすと笑っていた。
酔っぱらいの相手はまともにするものではない。
「ねぇ、まだ私に隠していることがあるんじゃない?」
『今夜の蘭子さんは切れ味が鋭いですね。何のことでしょう?』
「冬悟は紫音と関係があった夏木会長を恨んでいた、警察はそう言っている。だから夏木会長に復讐するために娘である舞に近付いたって」
『警察の話を真に受けるのも考えものですよ』
「そうね。でも夏木会長にも冬悟を殺す動機がある。大事な娘の貞操を傷物にされたのだもの」
警察も蘭子も、夏木十蔵を買い被っている。夏木は舞の貞操を傷物にされて怒り狂う男ではない。
夏木にしてみれば、雨宮の殺害は自分の周りを煩く飛び回る蠅《ハエ》を始末した。ただそれだけだ。
『夏木会長が雨宮さんを殺したと?』
「……それも違う気がする。夏木十蔵の黒い噂は京都にも届いているわ。あの人が裏社会と繋がりがあるのはわかっている。雨宮流も似たようなものですからね」
『雨宮流の後ろ楯には京都の朱雲《しゅうん》会がいましたね』
「そう。朱雲会の先代の会長さんと祖父が友人同士でね。その縁で、雨宮は京都で自由にやらせてもらえてる。だから大きな組織の裏にある黒い繋がりを否定はしない。夏木十蔵が後ろ暗いことをしていようが、伶と舞を巻き込まずにいるなら私はどうでもいいの」
舞はともかく、夏木は伶を暗い闇の渦に引きずりこんでいる。夏木のプランでは伶をいずれ愁の後釜に据えるつもりだ。
「けれど今夜のお誘いは止めておく。冬悟と舞の話を聞いた後では、男と遊ぶ気分にもなれない。それにあなたには、まだ聞きたいことがあるの」
『俺は話の続きはベッドの中でも構いませんよ。部屋に行きますか?』
「そんなに乗り気のない顔でベッドに誘われても嬉しくないなぁ。今のあなたは女を抱きたいって顔をしていないのよ。自分の顔をよくご覧なさい」
正面の窓に映る自分の表情を愁は凝視した。普段と変わらないと思える愁の顔の横に、眉を下げて苦笑する蘭子が映り込んだ。
「意中の人ができたのかしら?」
『心当たりはありませんね』
「ふふっ。いつか私にも紹介してくださいね。木崎さんが本気になった人に興味があるわ」
蘭子の会話についていけない。珍しくたじろぐ愁を横目に、蘭子はひとりでくすくすと笑っていた。
酔っぱらいの相手はまともにするものではない。
「ねぇ、まだ私に隠していることがあるんじゃない?」
『今夜の蘭子さんは切れ味が鋭いですね。何のことでしょう?』
「冬悟は紫音と関係があった夏木会長を恨んでいた、警察はそう言っている。だから夏木会長に復讐するために娘である舞に近付いたって」
『警察の話を真に受けるのも考えものですよ』
「そうね。でも夏木会長にも冬悟を殺す動機がある。大事な娘の貞操を傷物にされたのだもの」
警察も蘭子も、夏木十蔵を買い被っている。夏木は舞の貞操を傷物にされて怒り狂う男ではない。
夏木にしてみれば、雨宮の殺害は自分の周りを煩く飛び回る蠅《ハエ》を始末した。ただそれだけだ。
『夏木会長が雨宮さんを殺したと?』
「……それも違う気がする。夏木十蔵の黒い噂は京都にも届いているわ。あの人が裏社会と繋がりがあるのはわかっている。雨宮流も似たようなものですからね」
『雨宮流の後ろ楯には京都の朱雲《しゅうん》会がいましたね』
「そう。朱雲会の先代の会長さんと祖父が友人同士でね。その縁で、雨宮は京都で自由にやらせてもらえてる。だから大きな組織の裏にある黒い繋がりを否定はしない。夏木十蔵が後ろ暗いことをしていようが、伶と舞を巻き込まずにいるなら私はどうでもいいの」
舞はともかく、夏木は伶を暗い闇の渦に引きずりこんでいる。夏木のプランでは伶をいずれ愁の後釜に据えるつもりだ。