〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 ランドセルを背負った数人の女子児童が地面に落ちた木の葉を集めながら歩いている。色の綺麗な葉や形が整った葉を見つけては、ジップロックに保存する彼女達は紅葉した葉で押し花のしおりでも作るつもりだろうか。

 美夜の友人も出産ラッシュだ。
夏に結婚式に参列した結衣子も妊娠報告がインスタグラムに投稿されていた。どうやら結婚式をした時には、既に小さな命が宿っていたらしい。

 友人の子どもも、街ですれ違う子どもも、遠目から眺めていれば子どもは皆、可愛い。子ども達の無邪気な笑顔に殺伐とした心も癒される。

しかし美夜自身は子どもを持つ人生は考えられなかった。自分のような人間が親になれば、必ず子どもを不幸にする。

「九条くんはちゃんと避妊するタイプだよね」
『はっ? いきなり何を……』
「思春期真っ只中でもあるまいし、今さら顔赤くする話でもないでしょ」
『お前とそういう話をするのはなんか、むず痒いんだよ』

 突如振られた話題に九条は耳まで真っ赤にしてたい焼きを咀嚼する。たい焼きを綺麗に完食した彼は、ひとつ咳払いをした。

『神田が思ってるほど俺はちゃんとした男じゃない』
「そうなの?」
『白状すると高校の時は欲のままに突っ走ってた。高校二年の時の彼女も同い年で、二人とも初めてでさ。外出しすれば大丈夫だろって思い込んで……。妊娠が女の身体や人生を変える大変なことだなんて考えもしない、無知な子どもだったんだ』

 高校生の妊娠中絶はいつの時代も問題視されている。性に興味津々な高校生が間違った避妊の知識で事を行った結果の、望まない妊娠。

九条の昔話にもあるように、避妊具なしでも膣外射精なら妊娠しないと言う思い込みは大人になるとわかる幼稚な浅はかさ。

『神田がそういう話題出すってことは彼氏と……?』
「付き合ってとは言われてないから彼氏ではない」
『大人の恋愛は言葉がなくても始まるものだ』
「メロドロマみたいなセリフ言わないでよ。まさかそうなるとは思わなかった……なんて言い訳だね。心のどこかで、誕生日の夜に彼とそうなるかもしれないって期待はしてた」

 世の中には様々なハラスメントがある。
妊娠した社員への嫌味な暴言や、いじめ同然の仕打ちを行うマタニティハラスメントの加害者は、実は男性以上に同性が多いと聞く。
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