〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
『俺は夏木にとって邪魔な人間を殺す兵隊になった。夏木十蔵のくだらねぇ野望のために産み出された殺人兵器が俺だ』
「夏木会長の野望って何?」
『世界征服』
こちらを向いた美夜は眉間にシワを寄せていた。その表情は明らかに呆れている。彼女が呆れるのも無理からぬこと。
「真面目に答えて」
『一応、これが真面目な回答。犯罪組織カオスよりも最上位の犯罪組織を作ってこの国を支配する……。くだらねぇだろ』
「本当にそれが夏木十蔵の野望なら確かにくだらない。キングは死刑判決を受けて、カオスもとっくに壊滅してるのよ?」
『夏木はカオスのキングが先代の頃からあの組織と付き合いがあったんだ。ジジィはいつまでも犯罪組織カオスとその頂点に君臨するキングに囚われてる。そんなもの、最初からどこにもない幻想なのに』
浴槽内で窮屈に身体を反転させた美夜を膝の上に乗せる。向かい合う形で密着した二人の身体は、肌にじんわりと汗を浮き上がらせて火照っていた。
『皮肉にも俺を“ジョーカー”と名付けたのはカオスのキングだった。キングはカオスに取って変わりたい夏木の野望をわかっていながら、俺に殺人のイロハを教え込んだ。“切り札”なんて名前を付けてキングもどういうつもりだったか、もうあの人に聞けねぇんだな』
ちゃぷりと音を立てて揺れたラベンダーの湯はかなりぬるい。愁が昔話を語る間に、湯船の温度も下がってしまった。
外はまだ冷たい雨が降り続いているだろうか。ラベンダーの薫りに包まれた二人だけの秘密の世界を、あと少し堪能したい。
額にかかる濡れ髪を無造作に掻き上げた愁は、視線を上げて美夜を見つめる。
『長話になったな。逆上《のぼ》せてない?』
「お湯がぬるめだから平気」
背中に両手を回して抱き着いてきた彼女の心境はわからない。楽しい話ではない愁の昔話を聞き終えた美夜は今、何を思う?
『今夜泊まっていいか? 何もしないから。一緒に寝るだけ』
「男の人の“何もしない”は信じられないって友達が言っていたけど本当ね。信じられない」
『俺は信用ねぇな』
「嘘つきなんだから当たり前でしょ」
抱き合う二人の視線が上下で絡んだ。愁に跨がる美夜の目線が必然的にわずかに上になり、美夜を上にした状態で交わすキスは新鮮だった。
「夏木会長の野望って何?」
『世界征服』
こちらを向いた美夜は眉間にシワを寄せていた。その表情は明らかに呆れている。彼女が呆れるのも無理からぬこと。
「真面目に答えて」
『一応、これが真面目な回答。犯罪組織カオスよりも最上位の犯罪組織を作ってこの国を支配する……。くだらねぇだろ』
「本当にそれが夏木十蔵の野望なら確かにくだらない。キングは死刑判決を受けて、カオスもとっくに壊滅してるのよ?」
『夏木はカオスのキングが先代の頃からあの組織と付き合いがあったんだ。ジジィはいつまでも犯罪組織カオスとその頂点に君臨するキングに囚われてる。そんなもの、最初からどこにもない幻想なのに』
浴槽内で窮屈に身体を反転させた美夜を膝の上に乗せる。向かい合う形で密着した二人の身体は、肌にじんわりと汗を浮き上がらせて火照っていた。
『皮肉にも俺を“ジョーカー”と名付けたのはカオスのキングだった。キングはカオスに取って変わりたい夏木の野望をわかっていながら、俺に殺人のイロハを教え込んだ。“切り札”なんて名前を付けてキングもどういうつもりだったか、もうあの人に聞けねぇんだな』
ちゃぷりと音を立てて揺れたラベンダーの湯はかなりぬるい。愁が昔話を語る間に、湯船の温度も下がってしまった。
外はまだ冷たい雨が降り続いているだろうか。ラベンダーの薫りに包まれた二人だけの秘密の世界を、あと少し堪能したい。
額にかかる濡れ髪を無造作に掻き上げた愁は、視線を上げて美夜を見つめる。
『長話になったな。逆上《のぼ》せてない?』
「お湯がぬるめだから平気」
背中に両手を回して抱き着いてきた彼女の心境はわからない。楽しい話ではない愁の昔話を聞き終えた美夜は今、何を思う?
『今夜泊まっていいか? 何もしないから。一緒に寝るだけ』
「男の人の“何もしない”は信じられないって友達が言っていたけど本当ね。信じられない」
『俺は信用ねぇな』
「嘘つきなんだから当たり前でしょ」
抱き合う二人の視線が上下で絡んだ。愁に跨がる美夜の目線が必然的にわずかに上になり、美夜を上にした状態で交わすキスは新鮮だった。