〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 ──〈月曜日の切り裂きジャックついに逮捕! 犯人は十六歳の高校生〉──

 夜半《よわ》の東京を駆け巡る速報は、深夜の報道番組とネットニュースの見出しを独占した。

 11月26日月曜日の21時頃、板橋区の都営地下鉄、新板橋駅近くの路上にて挙動不審な男をパトロール中の警官が発見。

職務質問をしたところ男は刃物を所持しており、先月から相次ぐ女子児童連続切りつけ事件の犯人であると名乗り出た。

 警察はその場で男を緊急逮捕。逮捕されたのは都立荒川第一高校二年生の山岸勇喜。
勇喜は今年3月から4月にかけて東京で発生した風俗店勤務の女性四人を殺害したデリヘル嬢連続殺人事件の犯人、陣内克彦の教え子だった。

 彼は陣内の事件に影響を受け、デリヘル嬢連続殺人事件を模倣するつもりで犯行に及んでいたと供述している。逮捕された26日は小中学生の下校を見守る警察や保護者の厳戒態勢が強く、勇喜は日が出ている時間に犯行に及べなかった。

獲物を探すうちに夜となり、板橋区まで辿り着いた勇喜は小中学生ではなく帰宅途中の成人女性にターゲットを変更。次の犯行の機会を窺っていた。
パトロールの警官が勇喜を発見した時は、新板橋駅から出てきた女性を尾行している最中だった。

 大都会に再び現れた切り裂き魔は捕まった。死亡者を出さずに警察が恐れた最悪の事態は防げたのだ。

 しかし不審な点が残る。
最初の犯行の発生日時は10月22日14時。
この日の勇喜はまだ学校の授業中だ。学校側にも勇喜の出席と所在確認はとれている。

犯行があった時間に学校にいたアリバイがある勇喜は、一件目の切りつけ事件の犯人ではない。さらに四件目の犯行も時間的に勇喜には不可能だ。

 二件目と五件目は学校が終わった後、三件目は学校を13時に早退して犯行に及んだ。だが、一件目と四件目の犯行の話になると勇喜は口を閉ざしてしまう。

 勇喜以外に別の月曜日の切り裂きジャックがいる。それも勇喜が模倣犯の方だ。
捜査本部は引き続き、月曜日の切り裂きジャック事件の捜査を進める方針を固めた。

 警察が月曜日の切り裂きジャックの包囲網を敷いていた26日の夜にもうひとつ、東京都内で痛ましい事件が発生した。

中野区の東中野小学校の飼育動物殺傷事件。事件の裏に隠れた悲哀な動機は、犯人を突き止めた探偵と彼の娘だけが知る真実だ。

 今もこの腐った街のどこかで犯罪は起きている。
闇は人知れず蠢き、決して消えない。


(※東中野小学校飼育動物殺傷事件は【早河シリーズ完結編 魔術師】収録のスピンオフ【父親奮闘記】参照)
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