〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
傘の花を開いて正門に向かっていた彼女に声をかけてくれたのは正門に立つ守衛だ。
彼の名前は青井。この道三十年のベテラン門番だと、以前に立ち話をした時に教えてくれた。
『雨だから足元気をつけてね』
「はい。さようなら」
青井の笑顔に見送られるとホッとする。高飛車なお嬢様達に挨拶を無視をされても、青井は笑顔を絶やさず正門の前に立ち、生徒の出迎えと見送りを繰り返していた。
(青井さんみたいなイイ人が、どうしてあんな学校で働いているんだろう)
心に巣食う学校への不満、舞への憎悪、親への苛立ち、九条への募る恋心。
頬を濡らす滴は雨粒に似せた涙。
悔しい、悔しい。何もかもが、どうにもならない全ての出来事が悔しくて堪らなかった。
同級生の誕生日プレゼント代に三万円。年数回の海外旅行も、親のクレジットカードでの高額な買い物も家の船でのクルージングも当たり前。
紅椿学院高校の生徒は由緒ある家柄の子女が多い。会社経営者、銀行の頭取、医者や弁護士を両親や祖父母に持つ生徒が大多数を占めている。
和美と亜未の家は会社経営、恵里佳の家は医者。雪枝の父も末席ではあるが、守山ハウジングの役員の立場にある。
だが世間的には裕福とされる家柄の娘が通う私立女学校こそ、カースト最上位と最下層の格差が彼女達の前に残酷に立ち塞がる。
カーストの頂点に君臨する夏木舞は、長者番付常連の夏木十蔵が束ねる夏木グループの令嬢。
学校は夏木十蔵からの多額の支援を受けているのを理由に、舞だけは何もかもが特別待遇。
高等部の制服も舞のために今年度から一新され、舞は学校指定の学生カバンではなく、何十万もするハイブランドのバッグで通学している。
今日の英語の小テストも合格点に達しなかった舞は、本来であれば和美達と同じく居残りの課題プリントのペナルティがあるにも関わらず、ペナルティは免除。
学校が恐れているのは、夏木十蔵からの多額の寄付金が途絶えることだと噂話で耳にした。だから教師達は舞を特別扱いして、常に夏木舞と夏木十蔵のご機嫌とりをしている。
名門女子校の名が聞いて呆れる。見た目だけは歴史と品格を掲げる紅椿学院高校の実態は、長いものに巻かれる大人達の金儲けの場だった。
彼の名前は青井。この道三十年のベテラン門番だと、以前に立ち話をした時に教えてくれた。
『雨だから足元気をつけてね』
「はい。さようなら」
青井の笑顔に見送られるとホッとする。高飛車なお嬢様達に挨拶を無視をされても、青井は笑顔を絶やさず正門の前に立ち、生徒の出迎えと見送りを繰り返していた。
(青井さんみたいなイイ人が、どうしてあんな学校で働いているんだろう)
心に巣食う学校への不満、舞への憎悪、親への苛立ち、九条への募る恋心。
頬を濡らす滴は雨粒に似せた涙。
悔しい、悔しい。何もかもが、どうにもならない全ての出来事が悔しくて堪らなかった。
同級生の誕生日プレゼント代に三万円。年数回の海外旅行も、親のクレジットカードでの高額な買い物も家の船でのクルージングも当たり前。
紅椿学院高校の生徒は由緒ある家柄の子女が多い。会社経営者、銀行の頭取、医者や弁護士を両親や祖父母に持つ生徒が大多数を占めている。
和美と亜未の家は会社経営、恵里佳の家は医者。雪枝の父も末席ではあるが、守山ハウジングの役員の立場にある。
だが世間的には裕福とされる家柄の娘が通う私立女学校こそ、カースト最上位と最下層の格差が彼女達の前に残酷に立ち塞がる。
カーストの頂点に君臨する夏木舞は、長者番付常連の夏木十蔵が束ねる夏木グループの令嬢。
学校は夏木十蔵からの多額の支援を受けているのを理由に、舞だけは何もかもが特別待遇。
高等部の制服も舞のために今年度から一新され、舞は学校指定の学生カバンではなく、何十万もするハイブランドのバッグで通学している。
今日の英語の小テストも合格点に達しなかった舞は、本来であれば和美達と同じく居残りの課題プリントのペナルティがあるにも関わらず、ペナルティは免除。
学校が恐れているのは、夏木十蔵からの多額の寄付金が途絶えることだと噂話で耳にした。だから教師達は舞を特別扱いして、常に夏木舞と夏木十蔵のご機嫌とりをしている。
名門女子校の名が聞いて呆れる。見た目だけは歴史と品格を掲げる紅椿学院高校の実態は、長いものに巻かれる大人達の金儲けの場だった。