〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 ひとつ、気になる情報を萌子の担任から入手した。先月中頃に昼休み後の午後の授業を1時間分、萌子は欠席していた。
担任や保健医への届け出がない無断のサボりは、萌子が入学以来始めてのことだった。

優等生の気まぐれな反抗とも解釈できるが、もうひとり無届けで同じ授業を1時間サボった生徒がいた。
それが萌子のクラスメイトの山岸勇喜。あの月曜日の切り裂きジャックだ。

 女子児童連続切りつけ事件を起こした勇喜は、少年鑑別所《かんべつしょ》に収容されている。鑑別所を訪れた美夜は、該当する日時に萌子と一緒にいたかと勇喜を問い質すと、彼は首を縦に振って肯定した。

授業をサボって何をしていたとの問いに、勇喜は少し言葉を詰まらせつつ、武道棟の外階段で萌子と性交渉をしたと述べた。

 勇喜の言い分では、誘ってきたのは萌子だ。けれど萌子と勇喜は恋人ではなく、二人は恋人になろうともしていなかった。

それどころか親しい友達ですらない。その日までクラスメイト以上の関係ではなかったのだ。

 そんな薄い関係の少女と少年がある日突然、肉体関係を結ぶに至った心の動きは大人には理解が難しい。

思春期の性への好奇心や場の流れと言ってしまうのは簡単だ。あながちその解釈も間違いでもない。
勇喜はそれが初めての性行為だった。

 但し、紺野萌子は性交渉が初めてではなかった。何をどうすればいいか戸惑う勇喜をリードする萌子は、性交渉のやり方は陣内に教わったと言っていた。

 萌子の訃報を聞いた勇喜は驚きつつも、萌子はいつか誰かに殺されるかもしれないと思ったと口にした。

父親や兄が語る萌子の人となりは、賢く純粋なイイ子。だが、勇喜が語る萌子の評価は彼女の家族とは真逆だった。


 ──『俺、いじめはいじめる方が悪い派なんです。それを踏まえて聞いてもらいたいんですけど……。紺野みたいな、いじめられ体質になると、いじめられる方にも原因があると思いませんか? ツイッターでこういう発言をするとそんなことない、いじめられる人間に落ち度はない、いじめる人間が悪いに決まってるって噛みついてくる奴が絶対いるんですよ。だけどいじめる理由もいじめられる原因も、場合や人によりけりと言うか、一概には言えない微妙な部分がありますよね……』──


 そんな切り出しで勇喜は話す。萌子は自分以外の全ての人間を小馬鹿にしていた。教師も同級生も親も兄も、萌子は馬鹿にしている。

無意識なマウント、上から目線の物言いは思春期の少年少女が毛嫌いする要素だ。

 萌子はいじめられている私は可哀想と、悲劇のヒロインを気取っても現状を打開しようとはしない。いじめる人間に立ち向かうことも、いじめを学校に告発しようともしない。

いじめを受けながらいじめる人間を馬鹿にして、それが悪循環となってさらなるいじめの連鎖を生み出す。

 肉体関係を結んだ間柄であっても、勇喜は萌子を天性のいじめられ体質と中傷した。
自分が萌子の人柄を悪く言う資格はないが、どこかで怨みを買っていてもおかしくはない、萌子は人に嫌われる理由を自分から作って歩いている人間だった、と。
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