〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 何が何だか、美夜も九条も顔面蒼白で動画を凝視した。再生時間が1分を過ぎた頃、ようやく雪枝の声が聞こえてくる。

{“──ほら、カメラ回ってるよ。目立ちたがり屋の夏木さんをせっかく撮影して配信してあげてるんだから、もっと喋ってよ”──}
{“──ゆきちゃ……ん。お願い……離して……──”}
{“──ダメ。これからあなたと、あなたのお父さんの罪を暴く楽しい儀式が始まる。私、この日を待ちわびていたの。今日誕生日だよね? 最高の誕生日プレゼントでしょう?──”}

泣いて懇願する舞を見下ろす雪枝は銃を手にして笑い狂う。これが現在の紅椿学院高校で起きている惨状だ。

『これは……俺が知っている雪枝ちゃんではないです。あの子がこんなことを……』
{落ち着きなさい。大橋雪枝の情報を出来る限り詳しく教えて}
「……すみません、主任。九条くんが今は話せる状態ではなくて……。私が知っていることを九条くんに代わってお話します」

 頭を抱えて激しく動揺する九条に代わって美夜が、春に九条が遭遇した雪枝の万引き未遂を語る。

その縁で九条がたびたび雪枝を気にかけてプライベートで顔を合わせていたこと、10月には学校を無断でサボろうとして、九条が学校まで送り届けた件や、雪枝が学校でいじめを受けていると感じた美夜と九条の見解も話した。

 話の途中ですがるように握られた片手。美夜の手を掴む九条の大きな手は震えていた。

{九条くんと雪枝の関係はわかった。念のために確認だけど……九条くん? 聞こえているなら返事して}
『……はい』
{雪枝に対して、警察官や保護者の立場を越えた個人的な感情や、嫌な質問だけど性的な関係はないのよね?}
『ありません。彼女との付き合いで警察官の立場を逸脱するような行いは一度もしていません。ただ……雪枝ちゃんは、その……俺とは違ったみたいで。俺が悪いんです。あの子に好意を抱かせるような言動を、無意識にしてしまっていたのかもしれません』

 九条がそのつもりはなくとも、雪枝は九条を男として意識していた。ありがちな話ではあるが、スピーカーの向こうで真紀は唸っている。

 タブレット端末から流れ続ける教室の動画。雪枝は舞以外のクラスメイトに夏木舞の姿を静止画や動画で撮影するよう指示、生徒達が撮影した舞の写真と動画は生徒のSNSアカウントで拡散しろと命令した。
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