冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 そして、私の話で厨房の人が足りていないと知った桐人さんは、なんと翌日私の上司にこんなことを告げたらしい。

『人が足りないなら品数を減らしてもらって結構です。あなた方に無理をさせてまで、我々が贅沢をしたいとは思いませんので』

 口調は少々きつかったものの、上司はその言葉ではっとさせられたと言っていた。

 委託側に無理な要求をしてくる利用者も時々いる。しかし桐人さんは違い、厨房の事情を考慮してできる範囲でいいのだと伝えてくれたおかげで、私たちはとても救われた。

 この一連の出来事があってから、私は桐人さんを誰とも違う存在だと感じ、無意識に目で追うようになっていたのだ。

 それ以来、私が受け渡しを担当するコーナーに、桐人さんはたびたびやってくるようになった。毎日のようにカレーを頼む時期もあり、さすがに触れずにはいられなくなって、ある日私から話しかけてみた。

『カレー、お好きなんですね』
『いえ、別に』
『えっ。でも……』
『あなたの体調が気になるので、様子を見に来ているだけです』

 予想に反してそっけない返答が来てキョトンとする私に、彼はさらりとそう言った。

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