冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
「なに、女の子連れてきてどうしたの」
「紹介しようと思って。昔の俺のコレ」

 にやりと口角を上げて小指を立ててみせる先生を、結海ちゃんは〝は?〟という顔で見やった。

 彼女を小指で表すっていつの時代だ……と私も失笑する。彼女でもないし、本当に軽いんだから。

「先生古すぎますよ。っていうか、コレじゃなくて元患者です」
「そうそう、結海の病気の先輩にあたる秋華ちゃん。彼女も血管炎の治療をしてたんだよ」

 今度はちゃんと紹介してくれたので、しっかり結海ちゃんと目を合わせて「はじめまして。八影秋華です」と軽くお辞儀をした。

 今さらながら八影と名乗って内心照れる私を、結海ちゃんはびっくりした様子でじっと見つめる。

「そうなんですか? あなたも……」
「うん、私も二十歳の頃にね。今も定期的に検査はしてるけど、もうステロイドは飲んでないんだよ」

 炎症を抑えるのにステロイドは欠かせないものなのだが、副作用で眠れなくなったり、顔がむくんでしまうのが女性にとってはなにより切ない。こうして丸くなった顔のことをムーンフェイスという。

 でも六年経った今は、その煩わしさから解放されているのだとわかってもらいたくて、にっこり微笑んだ。「すご……」と呟いた結海ちゃんは、やや前のめりになって問いかけてくる。

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