冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
「鏡を見るのも嫌で、友達にも会いたくなかったよ。たまたま病院の庭で会った知らない人にすら顔を見られたくなかったし。と言いつつ、その人にいろいろ愚痴ったんだけど」
「そうなんだ……相当ストレス溜まってたんですね」

 私の体験談を聞いて、結海ちゃんは苦笑していた。

 副作用事情を知らない人にとっては、ただ太っただけだと思われてしまうし、つらさを理解してもらえないのがなにより悲しい。

 そういう鬱憤を心に溜めた状態で庭に出たあの日、俯いてばかりいるから体調が悪いのかと心配したようで、眼鏡をかけた若い男性が声をかけてくれたのだ。愚痴のはけ口がなかった私は、見ず知らずの彼にあれこれぶちまけてしまった。

 あの人には本当に感謝しかない。彼が温かい言葉をかけてくれたおかげで、つらい病気ともう一度向き合おうと思えたから。

 足の血管の手術ができなければ、最悪の場合歩けなくなってしまうかもしれない。その恐怖もかなり精神的に追い込まれる原因だったが、 幸い臨床試験という形で最新の治療を受けられて、乾先生のおかげで手術も成功したので健康な今がある。

 いつか再燃するかもしれないし、その不安がずっとつきまとう難病ではあるけれど、しっかり治療すれば改善する病でもある。結海ちゃんにはそのことを強調しておいた。

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