冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
「秋華ちゃんさえよければ、これからも時々結海の相談相手になってやってくれないかな」
「もちろんです。こうやって少しでも誰かの役に立てるなら、病気になったのも無駄じゃなかったなって思えるので」

 蘭先生の頼みに、私は二つ返事で頷いた。

 同じ苦しみを味わったからこそ届けられるものがあるだろうし、断る理由はなにもない。結海ちゃんには、私なんかよりもっと頼りになる人がそばにいるけれど。

「大丈夫ですよ。結海ちゃんの主治医は優秀なお兄ちゃんなんだから。これ以上に強い味方はいません」

 自信たっぷりの笑みを向ける。蘭先生はキョトンとした後、嬉しそうに口元を緩めて「ありがとう」と言った。

 しかしその表情には、そこはかとない切なさも滲んでいる。

「俺の専門だから結海のことは誰よりもわかってるけど、やっぱり家族が病気になるっていうのはやるせなくて気落ちしてたんだ。でも、秋華ちゃんのおかげで俺まで元気をもらったよ」

 先生はそう言って微笑み、私の頭にぽんと手を置いた。そうして髪を撫でたまま、まだなにか言いたげに私を見つめている。

 どうしたんだろうかと、オレンジ色に輝くその瞳を見つめ返して続きを待っていた、その時──。

< 133 / 233 >

この作品をシェア

pagetop