冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

「先生の頼みを聞いた形だったので、見送ってくれるついでに話をしていただけです。頭を撫でるのは先生の癖というか、学生時代からされていたし深い意味はありませんよ」
「学生時代から、ね……」

　はっ、余計なことを口走ったかも。彼の口角がほんのわずかに上がったのが恐ろしくて、冷や汗が滲む。

　でも、本当に桐人さんが思っているようなことはないのだ。蘭先生が結婚して異動したのは間違いないし、私が結婚しているのを向こうも知っているのだから。

「とにかく、先生は私に手を出したりなんてしませんよ。私も彼も結婚しているんですから」
「既婚者でも見境のない男はいるし、彼だって例外じゃない。妹さんのことを心配しているのは確かだろうが、同時に君と会う口実にもなる」
「そんなふうに疑わなくても……！」
「いいや、甘いくらいだ。本当なら俺ができる限り目を光らせていたいが、秋華がそれを拒むなら、君自身に細心の注意を払っていてもらわなければいけない」

　声にいら立ちが含まれているのが伝わってくる。

　確かに以前の桐人さんなら、毎日送迎するのはもちろん、ＧＰＳアプリでも入れて常に行動をチェックしたがっていたかも……なんてわりと本気で思う。私がそれを嫌がるとわかってくれているのはいいのだけれど、結局干渉されているような気がする。