冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 今しがたまで怒りを滲ませていた表情が、なんだか切なげなものに変わっている。おそらく他の人では気づかないだろう微々たる変化なのだが、私にはわかる。どうしてそんな顔をするの?

「……恩人、か。君にとってはそうだよな」

 まつ毛を伏せた彼が、ひとり言のように呟いた。今の私の発言は、そんなにショックを受けるものだっただろうか。

 引っかかるものを感じるも、ドアを開けた彼に手を引かれてはっとする。部屋の中へ引き込まれ、自動で灯る明かりが照らし出す彼は、すでにさっきまでの険しい表情に戻っていた。

「だいぶ自分をセーブしていたが、やっぱり人というのは根本は変えられないらしい」
「き、桐人さん?」
「君をこのまま閉じ込めて、誰の目にも触れさせず、俺しか見えないようにしてしまいたい」

 本音を紡いだ唇は、扉が閉まった直後、私のそれを塞いだ。

 よろける私の背中を壁に押しつけ、息もつかせないほどの荒々しいキスを繰り返す。ぞくりとするほどの独占欲で私を支配するみたいに。

 無意識に彼のシャツを握って激しいキスに応えていると、服の上から胸の膨らみに触れられた。びくっと身体が震え、鼻にかかった高い声が漏れる。

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