冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 腰が砕けそうになる寸前で、濡れたリップ音を立てて唇を離された。はぁ……っと呼吸をして目線を上げると、情欲も独占欲も、すべて必死に我慢しているような彼がいる。

「……君を抱いて、ぐちゃぐちゃに交わり合って心までひとつになれるなら、今すぐそうするのに」

 紡がれた声からやるせなさが伝わってきて、胸が締めつけられた。

 桐人さんは私から離れると、「仕事に戻る」とだけ告げて玄関を出ていく。パタンとドアが閉まった後、力が抜けてずるずるとその場にしゃがみ込んだ。

「私だって、ひとつになりたいよ……」

 ぽつりと本音をこぼして、抱えた膝に熱を持て余した顔を埋める。

 私はこの先もずっと桐人さんだけが好きで、たとえ誰に迫られても絶対になびかないと断言できる。それは桐人さんも同じであってほしいし、私も心までひとつに溶け合うくらい愛し合いたい。

 想いは同じなのに、意見がぶつかり合ってしまう。どうしてうまくいかないんだろう。

 初めて好きな人とケンカをした。そのダメージの大きさに、私はしばし座り込んで打ちひしがれていた。


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