冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

　心配そうに私に視線を送る結海ちゃんに微笑みかけ、観念して先生と一緒に病室を出る。私のもうひとつのバッグは彼の手に持たれたままだ。

　今頃厨房では、夕食の配膳で遅番の方々が頑張っているだろう。人気が少なくなった院内を歩きながら、白衣を着ていないせいもあって印象が違う蘭先生に、突っ込んだ話を振ってみる。

「あの……先生、離婚されてたんですね」
「あ、結海から聞いた？　そうなんだよ。バツついちゃってさー」

　へらっと笑う彼に、かっる……と心の中で呟いた。しかし彼の表情は苦笑に変わり、当時を思い返すように視線を宙に向ける。

「さっぱりしてる子で、本当に好きだったんだよ。でも結婚してしばらくしてから徐々に彼女が変わってきて、いつの間にか俺に依存するようになってたんだ」

　元奥様の話を聞き、少しドキッとしてしまった。依存というと、どうしても桐人さんが頭に浮かぶから。

「依存って、どういう……？」
「外科医はすれ違い生活になるから、そういうのも理解してくれてるはずだったのに、やっぱり我慢できなかったんだろうな。束縛がだんだん酷くなっていって、俺の気持ちが冷めてサヨナラした。これでも修復しようとはしたんだけど」