冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 瞳にわずかに切なげな色が滲むのを見て、離婚してしまったとはいえ、きっと蘭先生も元奥様とは真剣に向き合っていたんだろうなと感じた。

 しかし、すでに暗くなった病院の外へ出ると同時に彼はすぐに吹っ切ったような面持ちになり、さっぱりとした口調で言う。

「俺は追いかけられると冷めるタイプでね。そのせいもあって、執着心が強い人が苦手なんだ。だから君の旦那ともいつも険悪になっちゃうわけ」

 急に桐人さんの話題に変わったので、冷たい風が庭園の草木を揺らす音と胸のざわめきが重なった。

 先生が嫌みっぽい発言をするのは、そういう理由からだったの? というか、桐人さんが執着心が強いことも知っていたんだ。

「桐人さんのこと、前からそこまで知っていたんですか?」
「仕事の話をしていればわかるよ。こっちが引くくらい、あの人の熱意ってすごいから。きっと恋愛に対しても同じなんだろうなと思ってた」

 うん、当たっている。頼久さんと似たようなことを言うけれど、恋愛に繋げるのが蘭先生らしいというか、なんというか。

「秋華ちゃんのこともちょっと心配してる。あの人と一緒に生活してて息詰まらない? 今日はなんとなく様子が違うし、彼となにかあったんじゃないの?」

 顔を覗き込んで探りを入れられ、つい動揺する私。無意識に目を泳がせてしまう。

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