冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 その時、エントランスの先から誰かがやってくる気配を感じた。蘭先生は気づいていないようだが、私は瞳だけ動かしてその人を確認し、もう一度先生に視線を戻す。

「私は桐人さんがいいんです。あんなに深く私を愛してくれる人はいない。私がすべて受け入れたいと思える人も、彼しかいません。隣にいるのは彼じゃなければ意味がないんです」

 迷いなく言い切ると、蘭先生はやや面食らったような顔で押し黙った。しかし、私が今の言葉を聞かせたかったのは先生だけじゃない。

「それは最大級の愛の告白と受け取っていいか? 秋華」

 すぐ近くまでやってきた、先ほどメッセージを送った彼が言い、そちらを向いた先生は目を見開く。

 白い息を吐く口元を緩める彼に、私も微笑みかけて「もちろんです」と頷いた。──やっぱりあなたは来てくれるよね、桐人さん。

 蘭先生は落胆した様子でひとつ息を吐き、呆れ顔でブルゾンのポケットに手を突っ込む。

「八影さん……なんでまたいるんですか、あなたは」
「今日は私が呼んだんです。主人がいるのに、先生に送ってもらうのは申し訳ないので」

 桐人さんの隣に寄り添い、ちょっぴりバツの悪さを感じつつ苦笑した。

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