冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

　この時間なら仕事が終わっていることが多いし、私から【今すぐ病院に迎えに来てくれませんか？】なんてメッセージが来たら、桐人さんのことだからきっとすぐさま駆けつけてくれる。そんな思惑があって呼んでみたのだが、タイミングもばっちりだった。

　彼が走ってくるのが視界の端に見えたから、先生に断りながらも、彼にも聞こえるように想いを伝えたのだ。私は誰にもなびかないのだと、その目と耳で確かめて安心してほしくて。

　私の手を取って蘭先生を見つめる桐人さんからは、攻撃的なオーラは感じない。

「この間、私には秋華を診察することはできないと言いましたよね。マウントを取られたようで少々腹立たしかったので、私も言わせていただきますが」

　棘のある言葉を放ったものの、不敵に口角を上げる。

「あなたは診察も手術もできますが、秋華を幸せにすることはできません。彼女が愛しているのは私ですから」

　自信たっぷりに言い放つ彼に、先生は一瞬目を丸くした。そして、初めて負けを認めたような笑みをふっとこぼし、「やっぱりあなたは苦手です」と返した。