冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
蘭先生は、私たちの間に入り込む余地はないと悟ったのか、はたまた面倒だと思ったのか、引き際はあっさりとしたものだった。
いつものように私に手を振り、病院関係者専用の駐車場のほうへと背を向ける先生と別れ、私たちは桐人さんの車に向かって手を繋いで歩く。
「すみません、急にあんなメッセージを送って。仕事は大丈夫でしたか?」
「ちょうど終わったところだったんだ。たとえ業務中でも抜けてきていたよ。仕事はいくらでも対処できるが、秋華になにかあったら後悔するどころじゃ済まない」
彼の愛に感謝して微笑むも、甘い毒を振りまいてきた先生の姿がよぎった。
結海ちゃんに教えられた事実や、少々迫られたことを正直に打ち明けて反省する。
「私は医者としての蘭先生しか知らなくて、まさか自分は異性として見られるはずがないと信じきっていたんです。でも桐人さんの言う通り、もっと警戒しなくちゃいけませんでした。本当にごめんなさい」
「いや、俺も秋華の気持ちを蔑ろにして悪かったと思っている」
桐人さんも少し決まりが悪そうに言い、繋いだ手の力をきゅっと強くする。
「蘭先生が離婚したのは知らなかったが、シェーレの社員でも彼にハマって仕事を疎かにした女性がいたから心配だった。秋華が医者として慕っているだけだと頭で理解はしていても、過去には恋に似た憧れを抱いていたかもしれないと思うと、余計に放っておけなくて」