冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

　まさかシェーレの社員も先生の恋の罠にハマってしまっていたとは。先生、決していい男じゃないのにどれだけモテるのよ……。

　もはやため息が出るけれど、それより蘭先生に恋心を抱いたことはないと否定しておきたくて、「昔も先生は先生でしかないですよ」と返した。

　桐人さんはほっとした様子で、私を優しい目で一瞥する。

「連絡をくれて嬉しかったよ。俺はただ秋華に、彼より信頼されたかっただけなのかもしれない」

　その言葉を聞いて、私は知らず知らずのうちに彼を不安にさせてしまっていたのだろうと思い、また反省した。私が距離を取ろうと言ったり、先生を信じきっていたり、桐人さんは嫌だったはずなのに私のために我慢してくれていたのだ。

　いい加減に、彼の愛を全部受け止めてあげなくちゃ。義務とかじゃなく、私も彼をもっと愛したくてたまらないから。


　マンションに着いて部屋に入ると、そういえばチョコレートを渡さなければ、と思い出した。同時に、バレンタインなのに桐人さんはそれらしきものを持っていないことに気づく。

「桐人さんはチョコもらってないんですか？」
「ああ、義理もなにもいらないと毎年言っているから。今年はそれがやっと社員に浸透したらしい」

　なるほど、そういうところも桐人さんが冷徹だと言われる所以なのかもしれない。蘭先生とは真逆だな。