冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

 ……あの衝撃の告白から今日まで、あっという間だったな。今もまだ夢を見ているみたい。

 街中が浮き立っているように感じるクリスマスイブの午後七時、ホテルの高級レストランで桐人さんとディナーを堪能する私の脳内には、出会いから今までの思い出がよぎっていた。

 仕事を終えた後、制服からニットとマーメイドスカートに着替えて丁寧にメイクを直し、緩いウェーブの長い髪も綺麗に整えたので、少しは大人っぽくなっている……はず。元が素朴なたぬき顔なので、なにをやっても桐人さんには釣り合わないのだけど、努力はしているつもりだ。

 そして会社の外で待ち合わせ、彼の車に乗り込んでここへ来た。桐人さんは出退勤時間を私に合わせて毎日のように送迎してくれるのだが、社員に見られたくなくて少し離れた場所で乗り降りしている。

 夫婦なのだからこそこそする必要はないのに、私はまだ彼の妻だと知られる覚悟ができていないのだ。

 桐人さんのプライベートは謎に満ちている。そんな彼が結婚したとなったら、相手である私も絶対に注目を浴びて仕事がやりづらくなるだろう。

 好意的な社員ばかりではないだろうし、どんな反応をされるかちょっと怖かったりもする。社内では絢が恋人候補だと思われているのも、公表しづらい一因でもある。

< 16 / 233 >

この作品をシェア

pagetop