冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 桐人さんは『君は俺のものだと早く周知させたい』と、独占欲を露わにしてくれるのはとっても嬉しいのだけれど、私はもう少し心の準備が欲しい。付き合った期間が短いせいもあって、まだ勇気が出ないのだ。

 結婚と同時に一緒に暮らし始めて約二カ月が経ち、ふたりで過ごすことにはだんだん慣れてきた。こうやって高級な場所に来るのは気後れしてしまうけれど、彼との時間をひとり占めできるのは幸せすぎる。

 桐人さんは食べる所作もとても綺麗で、まさに品行方正という感じ。彼に恥をかかせないよう、フルコースをいただく今日は密かにマナーを頭に叩き込んできた。畑仕事をする両親の田舎料理を食べて育ったごくごく一般庶民の、悲しい性である。

 私は赤身が綺麗でとっても柔らかいサーロインステーキにナイフを入れ、昼間の一件を思い返しながら言う。

「桐人さんはきっとお魚を選ぶだろうなって思ってました。今夜このお肉を食べる予定だったから」
「正解。エスパーには簡単すぎたな」

 仕事中とは違う穏やかな表情で、敬語も使わない彼の返しにくすくすと笑った。

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