冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 最後までしっかり働こうと気合いを入れ、やってきたのは腎臓内科。食べ終わった食器やトレーが下膳車に置かれているので、それを引っ張ってまた厨房へ戻るのだ。

 下膳車をゴロゴロと動かしながら、チーフが思い出したように口を開く。

「この後の朝礼でも話すけど、今日のお昼から透析の患者さんがひとり増えるみたい。腎臓病食はなにに気をつけるか覚えてる?」

 突然問題を出され、ここへ来て学んだことを詰め込んだ頭の中の引き出しから答えを探し出す。腎臓病の食事は腎臓に大きな負担をかけないようにしなければいけないから……。

「塩分とタンパク質、あと……カリウムを控えること。カリウムが豊富な野菜は茹でこぼして、生の果物は出さない」
「大正解! やっぱり稲森さんを手放すのは惜しいわー」

 感心した様子のチーフに褒められて、小さくガッツポーズをする私。患者さんの体調に影響することだから覚えるのは当然なのだけれど、自分の知識も増えていくのは嬉しい。

 そうして厨房に戻ってからもいつも通りの業務をこなし、昼食の下膳を行う時間になった。早番の仕事はここまで来れば八割は終わったようなものなので、肩の力を抜いて再び腎臓内科へ向かう。

 ところが下膳車のそばまで来た時、思いもよらぬ人物が廊下を歩いてきて私は目を見開いた。

< 172 / 233 >

この作品をシェア

pagetop