冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 血液を取り出して老廃物や余分な水分を取り除き、綺麗にした血液を身体に戻す透析は、多くて二日に一回は病院で行わなければならない。しかし自宅に透析装置を置けば、毎日好きな時間に行えるので患者さんの負担がぐっと軽くなる。

 腎臓病食を作りながらその話も聞いていたけれど、臨床試験で入院を余儀なくされるようなトラブルが起こってしまったなんて。

 絢は落ち着いているものの、表情には沈痛そうな色が浮かんでいる。

「試験段階だから当然そういうリスクもあるって、私たち家族も父自身も承知の上で臨んだし、仕方ないことだと思ってる。命に関わるほどの影響ではないし。でも、やっぱり気は滅入るわよね……」

 長いまつ毛を伏せる彼女は、徐々に元気がなくなっていくのが見て取れる。お父さんの具合が悪化してしまったのはもちろん、自分が働いているシェーレの機器が原因だというのもショックだろう。

 どんな声をかければいいのか。正解を考えてもわからなくて、私の口から出るのは月並みな言葉しかない。

「……お父さん、早く退院できるといいね」
「うん。ありがとう」

 絢は素直にお礼を言い、力なく微笑んで病室へ入っていく。珍しく殊勝な彼女の姿を見て、複雑な気分になった。


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