冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

「もういいんですよ。気にしないでください。なあ、絢」

　穏やかな口調で許してくれる優しそうな彼が、絢にも宥めるように笑みを向けた。彼女はお父さんからふいっと視線を逸らして、病室の入り口のほうを見やる。

　その時、わずかにはっとした様子を見せた彼女は、私とチーフに軽く頭を下げる。

「……私も取り乱してすみません。父が心配で、つい。人間ですから間違いはありますよね」

　攻撃的な姿勢から打って変わって私たちを擁護し始めるので、やや怪訝に思ってしまう。間違えたと認めたわけでもないのに……と、やっぱり納得できない部分もあるけれど、今はこの場を収めるのが先決だろう。

「でも、単純な間違いが害を及ぼす可能性があることを、よく覚えておいてください」

　絢は厳しい表情で、非難するように私を見つめて釘を刺した。

　チーフと共に幾度となく頭を下げ、病室を後にしようと踵を返した時、ひとりの男性が入り口に立っているのに気づく。彼と目が合った瞬間、私はひゅっと息を呑んだ。

「社長……！　また来てくださってありがとうございます」

　絢の感激した声が響く中、桐人さんは心配しているようにも、疑っているようにも感じる瞳で私を見つめる。

　いつからいたのだろう。今のやり取りを見ていたとしたら、私がミスを犯したのだと思われても仕方ない。