冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 しばらく洗浄の作業をしてから、いつものように下膳車を取りに行く。しかし、なんだか身体が寒く、肩から腕にかけて怠くて手に力が入りづらい。熱が上がってきたんだろうか。

 下膳車を戻せば日勤の仕事は終わりだ。もうちょっとだけ頑張れ私の身体……!と、自分に活を入れて腎臓内科の病棟に来た時、面会時間も終わりに近づいて人気のないデイルームで話している男女の姿が視界に入る。

 その瞬間、私は思わず廊下の陰に隠れてしまった。窓際に立って話しているのは、桐人さんと絢だったから。

 おそらく臨床試験のことで話があるのだろうし、ふたりでいてもおかしくないのだが、なんとなく距離が近くて気になる。病室を出入りしている看護師さんに不審がられないよう、メモを取るフリをして耳をそばだてる。

「私、もちろん父に最新の治療を施してあげたかったから臨床試験を勧めたんですが、大好きなシェーレの……社長の力になりたいという思いもあったんです」

 臨床試験を行うきっかけを話す絢は、やっぱりまだ桐人さんへの想いを持ち続けていたらしい。ほぼ告白のような言葉に胸がざわめく。


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