冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

　──そうして引き出せたのは、頭の片隅にあった疑惑を確かなものにする内容。白鳥さんが話したことはすべて真実だと思う。

　絢さんとも話をするためデイルームに移動すると、彼女は窓からライトアップした庭園を見下ろしながら胸の内を語り始めた。

　俺は特に慰めるでもなく耳を傾けていたのだが、彼女はあろうことか俺の胸に飛び込もうとする。その瞬間、拒否反応が出たかのごとく咄嗟に彼女を引き剥がした。

　秋華以外の女性と密着するなんて言語道断だ。鼻をかすめるバラのような香りにすら嫌な気分を覚えたが、平静を装って冷静に突き放す。

「申し訳ありませんが、慰めを求めているのなら他を当たってください。私は絢さんとも誠心誠意向き合いますが、それは患者の家族としてです」

　きっぱり拒絶したものの、彼女は引き下がりそうにない。

「もちろんわかっています。それでも縋りたくなるくらい、つらいんです。ずっと父の容態が悪化しないか心配で、さっきの食事だって……気が休まりません」

　彼女は弱々しい声で言い、俺のシャツを掴んで頭を垂れた。

　おそらく、悲劇のヒロインを演じて秋華の株を落とそうとしているのだろう。どんなことをしても、俺の心が秋華以外の人を求めることなどありえないというのに……愚かだ。