冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
──以来、開発は絶対に妥協してはならないと心に刻み、社長になってからは厳しい最終確認を怠らないよう徹底している。仕事への執着心が強くなったのも、この一連の出来事がきっかけだった。
しかし、蘭先生にはまだ疑心があるらしい。
「六年前、秋華ちゃんが臨床試験を受けたいと言ったので、その意思を尊重して手術しました。でも、もし彼女の手術でもトラブルが起きていたらと思うと……八影さんのことも信用できなくなってしまったんです」
俺たちが会うたび対立しているのは、いまだに残る確執のせいだ。彼が秋華に迫ろうとするのももちろん原因のひとつだが、お互いの正義がぶつかり合ってしまうほうが大きい。
「蘭先生がそう思うのも無理はありません。私自身、とても恐ろしかったですから。ですが、あの一件があったから完璧を目指すことができている。シェーレの製品が高品質だと評価され、全国の病院で使われているのがその証拠です」
あの時の人工血管も、改良を重ねて今は多くの病院で使用されている。失敗を失敗のままでは終わらせないし、何度でもチャレンジする。
秋華に使ってほしい新薬もそうして出来上がった。